薄景子 14年8月10日放送
Billy Wilson Photography
1.香りのはなし グレース・ハンセン
アメリカの作家、グレース・ハンセンの言葉に
こんな名言がある。
結婚式もお葬式も同じようなものです。
違うのは、もらったお花の香りを自分でかげることくらいよ。
人生の二大セレモニーを
ここまで言いあてた言葉があるだろうか。
ウエディングブーケの香りは、新郎新婦の甘い記憶に、
故人が味わえなかった花の香りは、人々の胸に刻まれる。
香り。それは、五感の中でいちばん
記憶の中で生き続けるものかもしれない。
薄景子 14年8月10日放送
2.香りのはなし ガブリエル・シャネル
世界中の女性たちを魅了するブランド、CHANEL。
その創設者、ココ・シャネルの生い立ちは
決して裕福なものではなかった。
幼少期は孤児院で過ごし、
退屈な制服や慣習に反抗しながら育ったという。
その強靭な精神は大人になっても変わらず、
時代に先駆けて女性デザイナーとして不動の地位を確立する。
その成功の理由は、
彼女の芯の強さと男運の強さだったと言われる。
数々のセレブリティと浮名を流した
ココ・シャネルはこんな言葉をのこしている。
「香水は、貴女がキスしてほしいところにつけなさい」
「CHANEL N°5」
その香りは、恋愛から女性たちを輝かせ続けてきた、
シャネルという生き方の証。
小野麻利江 14年8月10日放送
Alessandro Baffa
3.香りのはなし 調香師が嗅ぐ香り
飛び抜けた嗅覚を駆使して香料を調合し
あたらしい香りを創り出していく職業、
「調香師」(ちょうこうし)。
彼らの嗅覚は、生まれつきそなわった能力ではなく、
プロとしての長年の経験の末に獲得されたものだ、
とする研究結果が、
脳医学会誌「Human Brain Mapping」に
掲載されたことがある。
経験の浅い調香師とベテラン調香師を
2つにグループ分けし、
数百から、数千もの匂いをかぎ分けさせたところ、
ベテラン調香師ほど、より速く正確に
答えにたどりついたという。
研究チームの1人、
神経科学者のジャン・ピエール・ロワイエは、
次のように説明する。
ピアニストが音階の練習を重ねて
上達していくように、
『鼻利き』になるためにも
トレーニングが必要だ。
小野麻利江 14年8月10日放送
bastus917
4.香りのはなし マーク・トゥエインとスミレの花
香水を選ぶ。つける。
自分のために選ばれがちな
その「香り」が、
誰かの鼻を愉しませることだって、しばしばある。
しかし、アメリカの作家・
マーク・トゥエインの次のような言葉ほど、
利他精神に満ちたものも、そうそうないだろう。
許しとは、踏みにじられたスミレの花が
自分を踏みにじったかかとに放つ芳香
熊埜御堂由香 14年8月10日放送
mumchancegaloot
5.香りのはなし ある調香師の仕事論
世界的に有名な調香師、
ジャン=クロード・エレナ氏は、自らの仕事を
こう定義している。
調香師とは、香りの文筆家のようなものだ。
そして、香水とは、匂いの書いた物語だ。
彼の代表作として知られる、エルメスの庭シリーズ。
『ナイルの庭』『地中海の庭』『屋根の上の庭』。
まさに小説のタイトルになりそうな名をもつ。
彼の調香スタイルは、愛用のモレスキンの手帳を携え、
南仏のグラースに構えたラボラトリーから、旅に出ること。
『地中海の庭』の調香をはじめた時のことだ。
チュニジアにある友人の家でパーティをしていると、
庭にでて、微笑みながら、いちじくの葉をちぎって、
香りをたしかめている女性を見かけた。
その瞬間、香りのイメージが、浮かんだ。
急いで、ラボラトリーに戻り、香りを組み立てていった。
こうした瞬間が重なって、
エルメスの香水の売上を三倍に跳ね上げたとまで
いわれる香水群は世に生まれた。
彼は自分の仕事について、こうも語っている。
もらった自由は、仕事の成功でしか、返せない。
熊埜御堂由香 14年8月10日放送
6香りのはなし グルヌイユの恋
46カ国語に翻訳された小説、
パトリック・ジュースキントの『香水 ある人殺しの物語』。
愛する女性の香りを永久に保存するため殺人を犯す
孤独な男の物語だ。
異常に鋭い嗅覚をもつ主人公、
グルヌイユは、苦悩し、こう独白する。
見たくないなら目をふさげばいい、
聞きたくないなら耳をふさげばいい、
しかし鼻はそうはいかない、
それは呼吸に関わっているからだ。
香りとは、ときに、ひとを、
抗いようのない、
甘美で悲しい恋に誘う。
茂木彩海 14年8月10日放送
7.香りのはなし 女の香り
フランスの作家、レミ・ド・グールモン。
彼は「髪の毛」という詩で、女性の香りをこう例えている。
君は干し草の匂い、
けものが身を置いたあとの石の匂いがする。
自分の中から自然と沸き立つ香りに、女性の魅力は隠れている。
茂木彩海 14年8月10日放送
idarknight
8.香りのはなし 未来の香り
香りは、過去の記憶だけを呼び覚ますわけではない。
そんな気づきを、作家、重松清は
短編「コーヒーもう一杯」の中でこう表現した。
彼女と飲むコーヒーの香りをむしょうに懐かしく感じている彼に、
彼女は語る。
あなたはいま、
未来の懐かしさを予感してるの。
だから、
なにも思いだせないのに懐かしいの。
未来で出会う記憶が、よりよいものになるように。
いまはただ、素敵な香りと出会いたい。
飯國なつき 14年8月9日放送
El Pelos Briseño
走る① ララムリ
走ることで、生きている民族がいる。
メキシコの険しい山岳地帯に住む、彼らの名は「ララムリ」。
彼らにとって、走ることは苦行ではないという。
「12時間でも14時間でも、夜を徹して走り続け、
誰がいちばん長く走れるか」
というゲームを楽しんでいるほどだ。
近くでウルトラマラソンが開かれると、
たくさんのララムリが参加し、上位を独占する。
ランニング専用のシューズやウエアを身につけた先進国の人々を、
ララムリは、わらじにスカートという普段着で、
軽やかに抜かしていくのだ。
ララムリに伝わる、こんなことわざがある。
地の上を走り、地とともに走る限り、永遠に走ることが出来る。
飯國なつき 14年8月9日放送
flashcurd
走る② Runner
走るときに、音楽が大切な相棒になるという人は多い。
中でも人気のある曲のひとつが、
爆風スランプの「Runner」だ。
この曲は、爆風スランプのメンバー4人のうち、
ベースの江川ほーじんの脱退に際し作られた曲だった。
結成以来、苦楽を共にしてきた仲間が去ることになり、
しばらく放心状態だったサンプラザ中野。
彼がつづった歌詞からは、
感傷を振り切り、夢へと向かう強い決意が読みとれる。
走る走る俺たち 流れる汗もそのままに
いつかたどりついたら 君に打ち明けられるだろう
たとえ今は小さく 弱い太陽だとしても