森由里佳 14年7月20日放送
それぞれの人生⑤ ドナルド・オコナー
アメリカのコメディ俳優ドナルド・オコナー。
第二次世界大戦中、陸軍へ入隊し、
負傷兵のために3000回ものステージをこなした。
その功労から将校への昇格を持ちかけられるが、
オコナーはその話を断る。
幼いころからショービジネスを教え込まれてきたオコナーは、
相手を楽しませるためには、おなじ立場にいるべきだ、と考えた。
兵士として仲間たちに笑顔を届けたオコナーは
除隊後にショービジネスの世界に復帰。
次はエンターテイナーとして世界中の人々に笑いを届けた。
オコナーの代表作となるミュージカル映画『雨に歌えば』。
その中で彼は高らかに歌う。
Make’em laugh.
Don’t you know everyone wants to laugh?
笑わせろ。だれもがみんな笑いたいんだ。
森由里佳 14年7月20日放送
それぞれの人生⑥ フランク・シナトラ
ジャズポップ界の永遠のスター、フランク・シナトラ。
第二次世界大戦終了後の3年間で170もの曲を発表。
瞬く間に黄金時代を築きあげ、アメリカ中の女性を虜にした。
彼の姿を一目拝もうと、2万人以上の女性ファンが劇場を取り巻き、
ブロードウェイが大混乱に陥った。そんなエピソードも残っている。
シナトラがスタジオで録音した最後のナンバーのタイトルは
“The Game Is Over”。
フランク・シナトラにとって、歌手という人生そのものが
一つのゲームだったのかもしれない。
蛭田瑞穂 14年7月20日放送
KoFahu meets the Mitropa
それぞれの人生⑦ アラン・レネ
今年3月に亡くなったフランスの映画監督アラン・レネ。
亡くなるひと月前に開催されたベルリン映画祭で、
アラン・レネはアルフレッド・バウアー賞を受賞した。
通常は若手監督に贈られるこの賞が
91歳の巨匠監督に贈られるのは稀である。
戦争を扱ったドキュメンタリー映画でデビューし、
しだいに政治ドラマ、恋愛心理劇、ミュージカルと
作家としての幅を広げていったアラン・レネ。
常にイノベーティブで新しい境地を開拓している。
賞の選考理由が彼の生涯を物語る。
蛭田瑞穂 14年7月20日放送
pierre pouliquin
それぞれの人生⑧ ガルシア・マルケス
世界的ベストセラー『百年の孤独』の作者として知られる
ガブリエル・ガルシア・マルケス。
今年の4月、87歳でこの世を去った。
『百年の孤独』にはこんなエピソードがある。
『百年の孤独』を書き上げた時、彼はまだ売れない作家。
原稿の束を出版社に郵送しようとしたところ、
重量がありすぎて郵送代が払えなかった。
そこでマルケスは原稿をふたつに分け、半分をまず出版社に送った。
しかし、あとになり、郵送したのは
後半の半分だったことに気づいたという。
現在では40以上の言語に翻訳され、世界中で愛される『百年の孤独』。
作者の亡き後も永く読み継がれるにちがいない。
古居利康 14年7月19日放送
trollhare
ヘムレンさんのはなし ①
トーベ・ヤンソンが書いた
ムーミントロールのおはなしにでてくる
ヘムレンさん。
ヘムレンさんは、なんにんもいる。
ムーミン谷の外にある、ヘムルの世界、
というところにおおぜい住んでいるという。
切手集めにむちゅうのヘムレンさん。
蝶々や虫ばかり追いかけているヘムレンさん。
整理整とんが得意なヘムレンさん。
警察署長のヘムレンさんもいれば、
孤児院をやっているヘムレンおばさんもいる。
ヘムレンさんは、みんながみんな、
スカートのような服を着ている。
ヘムレンさんは、ヘムル族という生きものの
一員で、スカートはヘムル族の
民族衣装みたいなもの。
ヘムレンさんというのは、つまり個人の名前ではない。
ムーミンが、ムーミン族のムーミントロールであり、
ミムラ姉さんが、ミムラ族のミムラであるように、
ヘムレンさんは、ヘムル族のヘムレンさんなのだ。
だからヘムレンさんはなんにんもいる。
古居利康 14年7月19日放送
SimonQ錫濛譙
ヘムレンさんのはなし ②
ムーミントロールのおはなしにでてくる
ヘムル族のヘムレンさん。
ヘムル族は、だいたい、おおむね、
陽気でおしゃべりなのだが、
なかには静かなのが好きなヘムレンさんもいる。
『ムーミン谷の仲間たち』に登場する
ヘムレンさんがそうだ。
そのヘムレンさんは、
川べりにある遊園地の切符係をやっている。
まいにち切符にパチンと穴をあけるだけの
この仕事に、うんざりしているヘムレンさん。
はやく年をとりたいと思っている。
年をとって年金暮らしになれば、どこか
静かなところに引っこんでひっそり暮らせる。
「自分でおもちゃの家をたてようと思うんです。
世界一きれいなおもちゃの家なんです。
いくつもいくつもへやがあって、
それがみんなからっぽで、しいんとしていて、
おごそかなんです」
静かなのが好きなヘムレンさんの、
それがちょっと風変わりな夢だった。
古居利康 14年7月19日放送
readysubjects
ヘムレンさんのはなし ③
ムーミントロールのおはなしにでてくる
ヘムレンさん。
『ムーミン谷の仲間たち』に登場する
静かなのが好きなヘムレンさんは、
とにかく音のでるものがきらいで、
遊園地につとめているのに、
笛や太鼓やオルガン、それに、
こどものことがあまり好きではない。
いや、こどもがきらいなわけではない。
わけもなくわらい、泣き、大声をだす。
あたりかまわず歌をうたい、ところかまわず
駆けまわって、いっときも静かにしていない。
こどもたちのだす、そんな音がきらいなのだ。
「あの気の毒な甥は、
もともとすこし変わりものだったよ」
と、ヘムル族の叔父にも理解されない。
あるとき、大雨が8週間ふりつづき、
川があふれて洪水になって、
観覧車も、メリーゴーランドも、
ぜんぶ流されてしまう。
遊園地はあとかたもなくなって、
ヘムレンさんは仕事をなくしてしまう。
古居利康 14年7月19日放送
[bastian.]
ヘムレンさんのはなし ④
ムーミントロールのおはなしにでてくる
ヘムレンさん。
遊園地が洪水で流されて、
切符係の仕事をなくしたヘムレンさんは、
ヘムル族のおばあさんが残してくれた公園に移り住む。
長いあいだ、だれも訪れることのなかった公園は、
草や花や樹木が生いしげり、荒れはてていた。
けれど、そこにはヘムレンさんの好きな沈黙があった。
ある日、こどもたちがやってきて、
洪水で流された遊具をあつめてきました、
ここに新しい遊園地をつくってください、と頼みこむ。
さいしょはしぶしぶ遊具をなおしたり、
組み立てたりしていたヘムレンさん。
この新しい仕事がだんだん好きになっていく。
新しい遊園地ができあがって、こどもたちが
あつまってきた。うれしそうに遊んでいる。
でも、ようすが変だ。音をたてずにそーっと遊んでいる。
静かなのが好きなヘムレンさんの遊園地だから。
ヘムレンさんは、こう思う。
「あすはみんなにいうとしよう。きみたち、
わらってもいいし、気がむいたらすこしは
歌をうたってもいいよって。
だけど、それ以上はだめだな、ぜったいに」
佐藤理人 14年7月13日放送
絵と服と男たち①「ナポレオンの襟」
肖像画は実物の3割増だという。
3割どころか9割増なのがルイ・ダヴィッドの描いた
『アルプス越えのナポレオン』。
似ていなくてもかまわない
偉大さを伝えろ
ロバは白毛の馬に。
防寒着は金の刺繍が施された紺の軍服と赤いマントに。
ナポレオンの命令通り、
ダヴィッドはどこにでもいる普通の男を、
稀代の英雄に生まれ変わらせた。
中でも素晴らしいのが上着の襟。
あごが隠れるほど高い上襟と幅の広い下襟は
「ナポレオンカラー」と呼ばれた。
それから150年後のアメリカで
似たような襟のシャツを着た男が
ロックンロールに革命を起こした。
彼の名はエルヴィス・プレスリー。
エルヴィスがナポレオンを真似たかはわからない。
しかし、キングが襟にこだわるのは世の常らしい。
佐藤理人 14年7月13日放送
絵と服と男たち②「モーツァルトの礼服」
モーツァルトがオシャレの歓びを知ったのは
6歳のときだった。
彼の天才的な演奏に感動した
オーストリアのマリア・テレジア女帝は、
ご褒美として息子のマクシミリアン皇子の礼服を与えた。
太い金モールで縁取られた藤色の上着とベスト、
華やかなレースのシャツやたくさんのボタンに
幼い少年は心を奪われた。
その姿を描いたのがアントニオ・ロレンツォーニの
『大礼服姿の少年モーツァルト』。
片手を懐に入れるポーズは
ナポレオンや坂本竜馬が有名だが、
この絵の彼が最初だと言われている。