石橋涼子 14年1月19日放送
誕生にまつわる話 谷川俊太郎
芥川龍之介が描いた河童の世界では、
お腹の中の赤ちゃんに
この世に生まれたいかを問いかけ、選ばせる。
私たち人間はもちろん選べない。けれど
自分なりの答えを考えることができる。
10歳のこどもの質問
「人は、なにをしに生まれてくるのですか?」
に、詩人の谷川俊太郎さんはこう答えた。
人は何かをしに生まれてくるわけではありません。
生きているのが楽しくて
幸せだと思えるように生きる、
そのために生まれて、生きているんです。
さて、あなたの答えはどのようなものでしょう。
小野麻利江 14年1月19日放送
ゆずか
誕生にまつわる話 大人の誕生
何歳の誕生日をすぎたあたりから、自分は大人になったんだろう。
もう子どもじゃない。もう大人なんだ。
そうはっきりと自覚した「あのとき」は、いつなんだろう。
詩人の長田弘は『深呼吸の必要』という詩集の中で、
その瞬間を、鮮やかに切り取ってみせる。
それはたとえば、自分についての全部のことを、
自分で決めなくてはならなくなったとき。
それはたとえば、歩くことの楽しさを無くしてしまったとき。
それはたとえば、ある日ふと、誰からも、
「遠くへ行ってはいけないよ」と言われなくなったとき。
それはたとえば、これ以上自分が大きくなれないんだと知ったとき。
それはたとえば、自分の人生で、
「こころが痛い」としか言えない痛みを、はじめて知ったとき。
九章からなる散文詩「あのときかもしれない」が見せてくれるのは
とりとめもないこととして片付けられるような、
でも、誰しもが通っている、火花のような瞬間の再体験。
子どもを大人にするのは、大人ではない。
子どもの中から、大人が生まれる。
薄 景子 14年1月19日放送
誕生にまつわる話 宇宙カレンダー
アメリカの天文学者、カール・セーガンは
宇宙137億年の歴史を1年に圧縮した、
「宇宙カレンダー」なるものをつくった。
数字には諸説あるが、
宇宙の誕生を1月1日、
現在を12月31日と設定すると、
人類の誕生は12月31日20時48分、
キリストの誕生は12月31日23時59分56秒。
人生80年という時間は、わずか0.1秒だという。
きょうという日は、まさに一瞬の奇跡。
さて、どう過ごそうか。
茂木彩海 14年1月19日放送
しで
誕生にまつわる話 幸田文の種
心の中にはもの種がぎっしりと詰っていると、
私は思っているのである。
ものの種が芽に起き上がる時のちからは、
土を押し破るほど強い。
幸田文、「崩れ」の一節。
40代で「種」を見つけた彼女は、
父の露伴を看取ったのち、文壇デビューを果たす。
種から発芽し、土を押し上げる誕生の瞬間に、
人は新しい自分を見る。
茂木彩海 14年1月19日放送
poi beltran
誕生にまつわる話 ピクサー
1986年、スティーブ・ジョブスによって設立されたピクサー。
コンピューターで人間性のある動きを再現できるはずがない。
当時はその可能性に懐疑的なアニメーターがほとんどだった。
ところがその後、「トイ・ストーリー」の発表で世間は肝を抜かれる。
スティーブ・ジョブスという革命児と
ストーリー作りの天才、ジョン・ラセターの力で、
ピクサーは見事にコンピューターをアーティストの鉛筆にすげかえてみせた。
アカデミー賞を4度受賞し、「ウォレスとグルミット」に代表される
クレイアニメーションの第一人者、ニック・パークこう語る。
ピクサーの映画は
アートとテクノロジーの幸福な結婚から生まれた子供なんだ。
佐藤理人 14年1月18日放送
Tilemahos Efthimiadis
フィリップ・スタルク①「ジューシー・サリフ」
レモンしぼりだと思うなら、
レモンをしぼるがよい。
1991年、糸井重里のキャッチコピーとともに、
その物体は西武百貨店のポスターに現れた。
巨大なレモンの種を逆さにしたような金属と、
そこから伸びた3本の長い脚。
ニューヨーク近代美術館における最高傑作であり、
プロダクトデザイナー、フィリップ・スタルクの名を
一躍有名にした
ジューシー・サリフ
漫画に出てくる宇宙人のようなその姿は、
「機能とデザインの調和」などという言葉では
言い表せないほど驚きに満ちていた。
こんなレモン絞り器なら、
毎日でもレモンを絞って飲んでみたい。
そう思わせる力がその外見にはあった。
生活にデザインが合わせるのではなく、
デザインに合わせて生活が変わる。
それこそ、優れたデザインの力。
佐藤理人 14年1月18日放送
kanga
フィリップ・スタルク②「フラムドール」
フランスが生んだ世界的デザイナー、
フィリップ・スタルク。
彼の建築デザインのキャリアは、
ここ日本で始まった。
浅草雷門から隅田川の方を見ると、
金色の不思議なオブジェが目に入る。
フラムドール
別名、金の炎。
アサヒビールが本社ビルを建てるとき、
スタルクに依頼したものだ。
スーパードライホールの
屋上に設置されたそのオブジェは、
本当は炎らしく縦に立つはずだった。
しかし建築基準法にひっかかり、
やむなく横になってしまった。
見方によっては
犬のフンに見えなくもないその形。
炎がもしも予定通り縦だったら。
ここまでの人気スポットには
きっとなれなかった。
美しいだけでは、世界は平凡だ。
佐藤理人 14年1月18日放送
kartellpeople
フィリップ・スタルク③「引退」
私がデザインしたものは
全て不必要だった。
そう言って6年前、
世界で最も愛されているデザイナーのひとり
フィリップ・スタルクは引退を宣言した。
自らを
クリスマスプレゼント専門のデザイナー
と自嘲する彼にとってデザインとは
「人々への奉仕」だった。
デザインなんてなくても誰も困らない。
だからこそ彼は見た目だけでなく、
機能性や価格にこだわった。
そこには、
趣味がいいだけの仕事をするな
という父親の教えがあった。
引退を決意した理由はわからない。
しかし65歳の誕生日を迎える今日も、
彼は精力的にデザインを続けている。
破られてうれしい約束もある。
佐藤理人 14年1月18日放送
sifone
フィリップ・スタルク④「秘訣」
アイデアはどこから来るの?
デザイン界のユニーク王、
フィリップ・スタルクに聞いてみた。
その方法はたったひとつ。独りでいることだ。
誰もいない場所でまっ白な紙と向き合うこと。
インスピレーションの源なんてどこにもない。
彼は断言する。そして創造性を維持するには、
早寝早起きをし、
ヘルシーな食生活と適度な運動を心がけ、
心身ともに健康でいること。
流行から離れて僧侶のように暮らすこと。
が必要だ、と。
パーティのバカ騒ぎからは何も生まれない。
創造と幸福は両立しない、と言うのだ。
心の闇にこそ、本当の光は隠れている。
芸術とはリア充じゃない人々の
特権なのかもしれません。
奥村広乃 14年1月12日放送
sifone
大人にならない少年
永遠に大人にならない少年、ピーターパン。
彼が、人間界の少女ウェンディと、
ネバーランドで繰り広げた冒険物語は
今も世界中の子どもたちを惹きつける。
ピーターパンの作者、
ジェームス・マシュー・バリーは
こんな言葉を残している。
幸福の秘訣は、
自分がやりたいことをするのではなく、
自分がやるべきことを好きになることだ。
人はいつか成長し、大人になってしまう。
子どものままでいたかったと嘆くのではなく、
大人になった自分を好きになる。
それが、ジェームス・マシュー・バリーの考える
幸せの姿なのかもしれない。