阿部広太郎 13年9月22日放送
ナンバー2の男 土方歳三
新撰組の鬼の副長、土方歳三。
クセ者揃いの新撰組のまとめ方は、
嫌われ役に徹することだった。
隊からの命令、方針の決定は、
隊長近藤勇からではなく、
ナンバー2の土方が隊員に伝えた。
当然、怒りや憎しみを買う。
しかし土方はこの方法を全うした。
土方は、近藤勇にこう言ったという。
あんたは総師だ。
生身の人間だと思っては困る。
奢らず、乱れず、
天下の武士の鑑であってもらいたい。
新撰組への覚悟の強さは、
土方が一番だったのかもしれない。
阿部広太郎 13年9月22日放送
ivva
ナンバー2の男 加藤正夫
タイトルを懸けた決勝戦で8連敗。
万年ナンバー2の囲碁棋士、加藤正夫は、
同門の石田芳夫九段に相談した。
加藤さんはすべての面でまじめすぎる。もっと遊びなさい。
それから加藤は数々のタイトル奪取に成功。
ついには名誉王座の称号まで手にする。
楽しむことで人は強くなれる。
加藤は誰よりも囲碁を楽しんだのだ。
阿部広太郎 13年9月22日放送
ナンバー2の男 橋爪四郎
第二次世界大戦後、
水泳界で次々と世界記録を打ち立て、
「フジヤマのトビウオ」の異名を取った古橋広之進。
その裏には、橋爪四郎というもうひとりのトビウオがいた。
古橋と橋爪は水泳部の先輩後輩。
いつも一緒にレースに出場し、名勝負を演じた。
結果はいつも古橋がナンバー1、橋爪がナンバー2だった。
1948年の日本選手権、自由形決勝。
橋爪が先行していたが、ラストスパートで古橋が抜き去り、優勝。
世界新記録を出した古橋は「負けたくなかった」と語った。
2009年、橋爪は古橋の悲報に触れこう語った。
ヒロさんとともに競技できたことを誇りに思う。
お陰で何者にもまねのできない選手生活を送ることが出来た。
歴史に残る世界記録は、
ふたりで生み出していたのだ。
佐藤理人 13年9月21日放送
DigiDreamGrafix.com
キングの道具箱①「誕生日」
ドライバー1本で足りるのに
なぜ道具箱を持ち歩くの?
少年は叔父に尋ねた。
ネジを閉めながら叔父は答えた。
急に必要になったとき、
手元にないと困るだろ?
少年は30年後、
モダンホラーの帝王
と呼ばれるベストセラー作家になった。
「スタンドバイミー」「グリーンマイル」
「ショーシャンクの空に」など、
数々の名作で知られる彼の名は、
スティーブン・キング。
彼は著書「書くことについて」の中で、
物書きに必要な物もまた、
自分専用の道具箱
だと言う。
今日で66歳になるキングだが、
その創作意欲は一向に衰えない。
きっと彼の道具は、
今もサビひとつなく
ピカピカに違いない。
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱②「受動態と副詞」
道具箱の一段目には、
普段最もよく使う物が入っている。
作家の場合、それは
語彙と文法
だ。
基本的には手持ちのものを使えばいい。
言葉を無理に飾ろうとすれば、
却って恥をかくだけだ。
ただし、とスティーブン・キングは続ける。
受動態と副詞は臆病者の好物である
言い回しが単純すぎはしないだろうか。
読者に分かりにくいのではないだろうか。
下手な文章の根底には、
大抵この手の不安がある。
しかし実際はどちらも文章を、
複雑で間延びさせるだけに終わる。
彼は言う。
小説はテストやレポートじゃない。
他人の目に自分の文章がどう映るか
なんて気にするべきじゃない。
簡潔に、ありふれた物言いは避け、
自信をもって能動態で書き進めること。
後は読者が勝手に想像してくれる。
それこそ読書の醍醐味なのだから。
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱③「段落」
作家スティーブン・キングが考える
物書きの道具箱の二段目にあるもの。
それは、
段落
だ。
多くの日本人は段落について
改行程度の認識しか持たない。
元々日本語には存在しない
文法なので無理もない。
しかし段落には明確なルールがある。
一つの段落では一つの事柄だけを述べ、
冒頭ではその要約を述べること。
キングは言う。
その本が読みやすいかどうかは、
中身を読まなくても分かる。
一段落が短く、余白が多い。
しかし、その後でこう付け加える。
言葉は無理に
ネクタイを締めなくてもいいし、
ドレスシューズを履かなくてもいい。
大事なことはルールよりリズム。
言葉の鼓動に耳を澄ませること。
佐藤理人 13年9月21日放送
Darren W
キングの道具箱④「読むこと」
三流は一流になれないし、
一流が超一流になることもない。
しかし二流が一流になることはできる。
作家スティーブン・キングは言う。
必要なことが2つある。
たくさん読み、
たくさん書くことだ。
彼が考える物書きの道具箱。
その最後の段には何もない。
あとは実践あるのみだ。
しかし書くためには、
読まなければならない。
読書は作家の創作活動の中心にある。
読む時間がないのに、
どうして書く時間がとれるだろう。
キングが考える作家の最大の敵。
それは、
テレビ
だ。彼曰く、
テレビは時間をとりすぎる。
テレビを切れば文章だけでなく、
人生の質も上がる。
どうやらインターネットにも、
同じことが言えそうだ。
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱⑤「ドアを閉める」
傑作を書くのに、
雑誌に出てくるような
オシャレな部屋は必要ない。
高級な机も文房具もいらない。
必要な物はただ一つ。
ドア
だ。
スティーブン・キングは言う。
夢は寝室だけで見るものじゃない。
作家にとって書斎は、
八時間たっぷり
創造的睡眠をとる場所だ。
そのためにはドアを閉め、
外のノイズをシャットアウトすること。
うるさくてはいい夢は見られない。
それは、白昼夢にも当てはまる。
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱⑥「ストーリー」
物語とは地中に埋もれた化石
のようなものだ
スティーブン・キングは言う。
作家は道具箱を使って
化石をできるだけ完全な形で
掘り出さなければならない。
すべての物語には固有の形がある。
しかしどんな形をしているかは、
掘り出してみるまでわからない。
大切なのは形に逆らわないこと。
作家の仕事はストーリーに成長の場を与え、
それを文字にすることだ。
私は主人公を窮地に立たせ、
どう脱出するか見守っているだけだ。
小説は単にその成り行きを、
書き留めたものに過ぎない。
書いている本人にも結末はわからない。
予め筋書きを立てることにも
キングは懐疑的だ。
そもそも人生に筋書きがあるかい?
仏師の円空は
木に棲む仏像を取り出した
と言い、彫刻家ミケランジェロは
石に囚われた天使を自由にした
と言った。
古今東西、創造とは即ち、
美の発見のことらしい。
佐藤理人 13年9月21日放送
キングの道具箱⑦「ドアを開く」
ドアを閉め、作品を書き上げたら、
作家が次にすべきことは何か。
それは、
ドアを開けること
つまり、人に見せることだ。
自分が心から信頼できる誰か。
スティーブン・キングはそれを、
理想の読者
と呼ぶ。
彼の場合は妻のタビサだ。
彼女の意見を聞くことでキングは、
読者の退屈や混乱を回避する。
しかしそれ以上に彼は、
彼の書いたものを読んで笑う
妻の顔を見るのが大好きなのだそうだ。
すべての小説は、
ひとりの人に宛てた手紙
と言われる。
世界で最も売れている小説家の一人、
スティーブン・キング。
彼は結婚して40年以上経つ今も、
世界一高価なラブレターを
妻に贈り続けている。