佐藤延夫 13年8月3日放送
あの場所へ 林芙美子
小説「放浪記」がベストセラーになり
林芙美子は、念願のパリへ出発した。
画家になりたかったと公言するほど美術が好きで、
敬愛する永井荷風はフランス文学者。
彼女がパリに憧れない理由はなかった。
夫を日本に残しての一人旅。
パリでは、1ヶ月の生活費をおよそ800フランに決めて
切り詰めながら暮らしていたそうだ。
海外旅行が珍しかった時代、
着物姿で下駄を履いたジャポネーズは、
きっと話題になったことだろう。
佐藤延夫 13年8月3日放送
DonaldOgg
あの場所へ/ 寺山修司
旅をするなら、何を見ようか。
雄大な自然か、歴史を感じる街並か。
「本屋のないところには行きたくない」
そう言ったのは、寺山修司だった。
パリでもロンドンでも、
着いたらまず本屋を探し、
画集を山のように買い込む。
美術館めぐりをして、
気鋭のアーティストと話をする。
本を探し、人に会う。
風景なんて目もくれない。
それが彼の旅のスタイル。
寺山修司が密かにコレクションしていたものは、
「PLEASE DO NOT DISTURB」。
ホテルのドアに引っ掛ける、「起こさないでください」の札だったそうだ。
佐藤延夫 13年8月3日放送
Fabrice ROSE
あの場所へ ラフカディオ・ハーン
ラフカディオ・ハーンが、まだ新聞記者だったころ。
37歳のとき、カリブ海に浮かぶマルティニーク島へ旅に出た。
コロンブスが「世界で最も美しい場所」と言った島だ。
ハーンは、この熱帯の島がとてもお気に召したようで
2年ほど住み着いて現地の人々と交流した。
東洋の島国、日本に渡ったのは、その翌年のことになる。
思えば、彼が生まれたのは、
地中海にあるギリシャ領の島、レフカダ島。
その男のDNAには、島の景色が刻まれていたのかもしれない。
のちにハーンの妻、小泉セツが、
彼の好きな場所をこのように記している。
マルティニークと松江、美保の関、日御碕(ひのみさき)、焼津
この夏、大好きな景色を探しに行きませんか。
佐藤延夫 13年8月3日放送
あの場所へ ジャン・コクトー
南仏、コート・ダジュール。
ピカソ、マティス、シャガールなど、
この地を愛した芸術家は多い。
ジャン・コクトーもその一人だった。
友人の資産家夫人に招待され、
初めて訪れたコート・ダジュールに彼は一目で魅了される。
そのせいで、イタリア国境に近いマントンという街には、
ジャン・コクトー美術館がふたつもあるそうだ。
生き方の基準は、正しいか正しくないかではなく、
美しいか否かである。
これは、コクトーが残した言葉。
もちろん、美しい風景にも囲まれていたほうがいい。
佐藤延夫 13年8月3日放送
archer10 (Dennis)
あの場所へ ハンス・クリスチャン・アンデルセン
デンマークの首都コペンハーゲンは、
童話作家、アンデルセンの故郷だ。
港町ニューハウンには、
当時、彼の住んでいたアパートが残されている。
旅が好きだったアンデルセンは、生涯に28回も転居し、
30回の海外旅行と87回の国内旅行をしたという。
そんな彼の言葉。
旅は私にとって、若返りの泉である。
アンチエイジングには、旅がいい。
佐藤延夫 13年8月3日放送
あの場所へ ヘミングウェイ
キューバの首都、ハバナ。
そこから東へ10キロほどにある、
コヒマルという小さな漁村は、
小説「老人と海」の舞台になった場所だ。
実はヘミングウェイ自身、
釣り船が遭難しかけた際に助けられたのが、
コヒマルの近くだったという。
そして、そのときに出会った漁師を、
「老人と海」に登場する男のモデルにしている。
釣れないときは、魚が考える時間を与えてくれたと思えばいい。
これは、ヘミングウェイの言葉だ。
晩年になると彼は、恩人の漁師を引き連れて、
コヒマルの沖で釣りを楽しんだそうだ。
何度訪れても、歓迎してくれる。
そんな場所が、心のふるさと。
名雪祐平 13年7月28日放送
手紙 マリリン・モンロー
マリリン・モンローから
ケネディ大統領へ誕生日プレゼント。
ロレックスの時計が贈られた。
そこにそえられた言葉。
Let me love or let me die.
あなたを愛させて。さもなくば死を。
むしろこの言葉に
ロレックスをそえたのでは。
お伽噺のような主人公。
お伽噺のようなセリフ。
その3カ月後、マリリンは
自宅の寝室で全裸で死んでいた。
or Let me die.
さもなくば死を。
お伽噺のようなエンディング。
名雪祐平 13年7月28日放送
手紙 ナポレオン
1796年、フランスの英雄ナポレオンは
恋人ジョセフィーヌに
自筆のラブレターを送った。
それから200年以上たった2007年、
そのラブレターはオークションで
約6800万円という高額で落札。
こんな文があった。
3つのキスを贈ります。
1つはあなたの心に。
1つは唇に。
残りの1つは瞳に。
たった一人の女性に書いた
気障な言い回し。
いま、世界中の人が読むことができる。
それを止めるのは、
余の辞書に不可能の文字はない
と豪語したナポレオンにも、不可能。
名雪祐平 13年7月28日放送
手紙 カフカ
公園で少女が泣いている。
人形をなくして泣いている。
散歩をしていた作家カフカは
少女をなぐさめた。
きみのお人形は、
旅に出たんだよ。
どうしてわかるの?
だって、ぼくのところに
お人形から手紙が来たからさ。
次の日、手紙をもってきて
少女に読んで聞かせた。
もちろんカフカが書いたものだった。
それから毎日手紙を書いた。
旅先でお人形は
いろいろな冒険をする。
青年と愛し合い、森で結婚式をする。
お人形は少女にお別れを告げ、
手紙も終わった。
もう少女は泣かなかった。
ただお人形をなくしたのではないから。
お人形はすべてを自分に伝えてくれたのだから。
名雪祐平 13年7月28日放送
Em and Ernie
手紙 フィンランドのサンタクロース
サンタクロースの仕事は
プレゼントを届けること。
そして、手紙の返事をせっせと書くこと。
毎年、世界150カ国の子どもたちから
数十万通もの手紙が
フィンランドのサンタ宛に届く。
フォンランドの人々が
子どもたちの夢を壊すわけにはいかないと、
サンタクロース中央郵便局を開設。
一気に返事は書けないから、
ずっと返事を書いている。
サンタクロース、年中無休。
それにしても、
サンタクロースは
日本語が読めたり、書けるのだ。