大友美有紀 13年5月5日放送
「父と息子」チェーホフ
「桜の園」の作者・チェーホフ。南ロシア生まれ。
その掌編は、知的階級の俗物性をえぐり、
大胆に笑いを加える。近代人の不毛と絶望を描く。
祖父は、農奴だった。
苦労して得た金で自由身分を買った。
父親は祖父の店を継いで、チェーホフの兄たちを
大学に行かせたところで、力尽きてしまった。
彼は奨学金で医大に進み、
在学中から雑誌に投稿し、家計を助けた。
医師になってからも執筆を続け、著名な作家となった。
その後は、流刑囚の待遇改善運動に取り組み、
小学校を3つも寄付した。
しかし自作の中では、主人公に体制下の
診療所や小学校に対する批判をさせる。
民衆は大きな鎖でがんじがらめに縛られているのに、
あなたは、その鎖を断ち切ろうとせず、
新しい鎖の環を付け加えているにすぎない。
父と違う生き方を選ばされた自分。
努力の末、ブルジョワ階級となった自分。
自己を辛辣に見つめることが
父への愛だったのかもしれない。
大友美有紀 13年5月5日放送
「父と息子」セザンヌ
近代絵画の父、ポール・セザンヌは
気難しい人だった。
どこまで描いても満足せず、描いて描いて
命を縮めるほどに絵画に取りつかれていた。
30歳の時、19歳のオルタンスと出会い、結婚。
やがて、息子が生まれる。
しかし、父親から経済的援助を受けるため、
結婚と誕生を隠さなければならなかった。
オルタンスは、忍耐の結婚生活を強いられ、
セザンヌは絵に全エネルギーを注いだ。
晩年、糖尿病を煩ったセザンヌは、
妻と子に愛情溢れる言葉を残したのか。
わしの悲境では、わしを慰め得るものは、
唯おまえばかりだ
セザンヌが息子に宛てた手紙だ。
どこまでも自分の心情に素直だ。
大友美有紀 13年5月5日放送
「父と息子」ルドン
フランス象徴主義を代表する画家・ルドン。
生後2日目で里子に出された、絶望的な孤独。
その環境が、心の奥底に棲む妖怪を描く、
幻想性と夢想性にあふれた、
彼の世界を形成した。
40歳を超えて、はじめて父となった感動は深い。
生後2ヶ月の息子に呼びかける。
その目を自分に向けさせようとする。
彼は長い間私を見つめて、
目に涙をためてほほえんだ。
私は征服された。
大友美有紀 13年5月5日放送
「父と息子」若田光一
2013年末。宇宙飛行士・若田光一は、
国際宇宙ステーションの、
日本人初のコマンダー・船長となる。
小学校のときは模型飛行機を飛ばして遊んでいた。
父は、公務員。朝早くから仕事に行き、残業や飲み会などで、
返ってくるのは夜遅かった。
その父は、給料日には、きっちりと早く帰ってくる。
夕食のおかずが一品多くなる。
母は、給料袋を感謝して受け取る。
給料が多かった月、父は母に服でも買えと言った。
母は、父のコートを買おうと言った。
「じゃ、ちょっと無理して、光一の自転車でも買ってやるか」
光一は飛び上がって喜んだ。
小学2年まで、幼稚園の時の小さな自転車で我慢していた。
お金のありがたみ、人に感謝する心、働く尊さ、思いやり、我慢を、教えられた。
父から学んだ心構えが、宇宙でも活躍する。
佐藤延夫 13年5月4日放送
みどりの日/レイチェル・カーソン
アメリカの生物学者、レイチェル・カーソンは言った。
自然界の保全について、我々が慎重を欠いていたことを
未来の世代は、決して許さぬだろう。
1962年に出版された「沈黙の春」。
この中で彼女は、世界中の人々に環境問題が存在することを訴え、
「環境保護の女神」と呼ばれるようになった。
そして、こんな言葉を残した。
「知ること」は、「感じること」の半分も重要ではない。
今日は、みどりの日。
あなたの周りにある自然を、感じてください。
佐藤延夫 13年5月4日放送
みどりの日/カール・フォン・リンネ
18世紀に生まれたスウェーデンの生物学者、
カール・フォン・リンネ。
動物、植物、鉱物を分類し、
二名法(にめいほう)と呼ばれる独自の手法で、
生き物たちの戸籍をつくった。
そして、およそ7700種類の植物と、
4400種類の動物の名付け親になった。
自然は跳躍せず。
これは、彼が残した短い言葉。
自然も人間も、ある日突然、進化することはない。
今日は、みどりの日。
それはのんびり生きることを、思い出す日。
佐藤延夫 13年5月4日放送
みどりの日/ビアトリクス・ポター
ピーターラビットを生んだ絵本作家、ビアトリクス・ポター。
同じ年齢の子どもたちとは距離を置き、
小動物の観察やスケッチに没頭するような少女だった、と回想している。
私は子どものころ、半信半疑ながらも、もっぱら妖精と遊んでいたのを覚えている。
幼少期の精神世界を持ち続け、知識と常識を加えてバランスをとり、
夜の恐怖をもはや恐れず、それでも命の物語を少し、
ほんの少し理解することができたら、そんな天国はほかにないでしょう。
晩年には、イギリスの湖水地方の緑豊かな土地を買い、
自然保護活動に力を注いだ。
ピーターラビットの森を、彼女は守り続けた。
今日は、みどりの日。
あなたの愛する自然は、どこにありますか?
佐藤延夫 13年5月4日放送
みどりの日/ワーズワース
イギリスの詩人、ウィリアム・ワーズワース。
彼は、湖水地方の自然を愛し、そこで数多くの作品をつくった。
まるで、運命で決められていたかのように。
かつて牧場と 森と 小川と 大地と
あらゆる周囲の風景が
わたしにとって天上の光に包まれて見えたときがあった
これは、ワーズワースが、自らの幼少期を回想した詩の一節。
自然への深い敬意は、最愛の妹への手紙にも残されていた。
緑の森の中での感動は
人間や道徳的な善悪について
どんな賢者からよりも
多くのことを教えられる
ワーズワースが眠る、湖水地方のグラスミア湖畔。
緑まばゆい丘からは、きらきら輝く水面と、美しい山々を臨むことができる。
今日はみどりの日。
それは、美しい自然をゆっくりと見つめなおす日。
佐藤延夫 13年5月4日放送
みどりの日/ベートーヴェン
ドイツの作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。
20代後半から聴覚障害に悩まされ、
保養地での療養生活を定期的に行っていたという。
ウィーン郊外の温泉保養地バーデンには、
彼の愛した自然が残されている。
人間関係の煩わしさから逃れ、ゆるやかな時を過ごしたそうだ。
田園にいれば私の不幸な聴覚も私をいじめない。
そこではひとつひとつの樹々が私に向かって、
ハインリッヒ、ハインリッヒと語りかけるようではないか。
森の中の恍惚!誰がこれら全てのことを表現しようか。
今日は、みどりの日。
音楽と自然に、身を委ねる日。
佐藤延夫 13年5月4日放送
みどりの日/南方熊楠
日本の博物学者、南方熊楠。
十数カ国語を操り、数多くの研究論文を残した。
類い希な記憶力、破天荒なエピソードばかり注目されがちだが、
地元、和歌山の自然を愛し、山林の保護を訴え続けた。
熊楠は、エコロジーという言葉を
日本で初めて使った人物とされている。
今日は、みどりの日。
それは故郷の自然を、もう一度愛する日。