岡安徹 12年11月24日放送
建築を続ける人たち サグラダ・ファミリア
サグラダ・ファミリア。
スペイン、バルセロナにあり、1882年の着工以来、
100年以上に渡り建造が続けられている教会堂である。
完成までに長い月日を要しているのには、理由がある。
建築家アントニオ・ガウディは、設計にあたって
いわゆる設計図をあまり描かなかった。
「美しい形は構造的に安定している。構造は自然から学ばなければならない」
と、自然の中に最高の形があると信じていたガウディは、
数学や方程式を使わず、力学的な実験に基づいた
模型の作成を重要視し、それに従って壮麗かつ丈夫な建造物を
生み出していったのだ。
予想外だったのは、スペイン内乱で当時の模型や資料が消失してしまったこと。
その後は、時代ごとの職人が伝承や大まかな外観のデッサン等を元に、
ガウディの設計構想を推測するといった形で建設が進められている。
いつまでも続く、職人たちの創意工夫。
もはや、それもサグラダ・ファミリアの魅力の一部になっている。
佐藤理人 12年11月18日放送
007シリーズ50周年① イアン・フレミング
ケンカが強くて頭脳明晰。
女性にモテモテなイケメンスパイが、
秘密道具とスーパーカーで世界を救う。
男なら誰もが一度は憧れる男。
007ことジェームズ・ボンド。
この荒唐無稽なスーパーヒーローは、
原作者イアン・フレミングが
第二次大戦中にイギリス情報部で監視していた
実在のスパイを元に作られた。
彼が007シリーズを書き始めたのは、
自身の結婚式前夜のこと。
43歳にして初婚という
恐怖心への解毒剤
だったと言う。
佐藤理人 12年11月18日放送
007シリーズ50周年② ショーン・コネリー
初めての仕事は牛乳配達だった。
やがて男は世界を救うヒーローになった。
世界最長の映画シリーズ「007」。
初代ジェームズ・ボンド、
ショーン・コネリーの人生は、
その華麗な役柄とは正反対だった。
貧しい家に生まれ、中学卒業と同時に就職。
第1作「ドクターノオ」で
ボンド役に抜擢されたのは1962年のこと。
様々な職を転々とした後、
32歳で初めてつかんだチャンスだった。
頭髪が寂しくなりかけたこの無名の新人を見て、
原作者イアン・フレミングは猛反対したと言う。
それから半世紀。
彼を超えるボンドはまだ出ていない。
佐藤理人 12年11月18日放送
johanoomen
007シリーズ50周年③ ジョージ・レーゼンビー
世界最長の映画シリーズ「007」。
その最大のピンチは第6作「女王陛下の007」で訪れた。
マンネリに飽きたとショーン・コネリーが役を降りたのだ。
二代目ジェームズ・ボンドは、
オーストラリア出身のモデル、ジョージ・レーゼンビー。
演技の経験はなかったが、
軍で格闘技の教官だった経験を買われての起用だった。
スター気取りになった彼はギャラの上乗せを要求、
断られるとたった一作で降板した。後に彼は、
若さゆえの未熟さ、傲慢さが自分にはあった。
あの時私は、輝かしいチャンスと
失われていくチャンスを同時に目の当たりにした。
と語っている。
数々のトラブルにも関わらず、
「女王陛下の007」はシリーズ屈指の名作になった。
理由はボンドが初めて恋に落ち結婚する
素敵なラブストーリーであること。
そして最高に悲しくて
切ないエンディングを迎える作品であるからだ。
佐藤理人 12年11月18日放送
007シリーズ50周年④ ロジャー・ムーア
ジェームズ・ボンドのピンチを救ったのは、
別のジェームズ・ボンドだった。
3代目007、ロジャー・ムーアは、
持ち前のユーモラスな演技で前任者のゴタゴタを一掃。
第8作「死ぬのは奴らだ」以降、
歴代最多の7作品でボンドを演じ、
シリーズの長寿化に貢献した。
ユーモアのないサディスティックな
バイオレンス映画なんて考えたくもない代物さ。
荒唐無稽なキャラクターを茶化すような彼の演技は、
007を暴力的なアクション映画から
家族そろって楽しめる娯楽大作に変えた。
コミカルなボンドが人気を博した理由。
それは国際社会で次第に発言力を失っていく、
イギリスの悲哀の裏返しであった。
佐藤理人 12年11月18日放送
007シリーズ50周年⑤ ティモシー・ダルトン
最高の007は、最低の007でもあった。
4代目ジェームズ・ボンド、ティモシー・ダルトン。
彼はシェイクスピア俳優らしいシリアスさでこの役を演じた。
故ダイアナ妃に
最もリアルなジェームズ・ボンド
と評された第15作「リビング・デイライツ」は
それまでで最高のヒット作となった。
ところが次作「消されたライセンス」では
暴力路線に走りすぎ、最低売上を記録。
ダルトンはたった二作で降板してしまう。
さすがのジェームズ・ボンドも、
売上には勝てなかったらしい。
佐藤理人 12年11月18日放送
Rita Molnár
007シリーズ50周年⑥ ピアース・ブロスナン
ベルリンの壁が崩壊し、ソ連は解体。
かつての敵が味方になった90年代。
冷戦後の世界に、007の居場所を見つけること。
それが5代目ジェームズ・ボンド、
ピアース・ブロスナンの使命だった。
今までの4人をミックスしたキャラクターと
ソ連崩壊後の権力腐敗を描いたストーリーで、
第17作「ゴールデン・アイ」は
最高収益を大幅に更新。
その後も巨大メディア王や北朝鮮など、
時代とシンクロした敵を設定し、大ヒットを連発する。
007は見事、超娯楽大作として職場復帰を果たした。
佐藤理人 12年11月18日放送
Caroline Bonarde
007シリーズ50周年⑦ ダニエル・クレイグ
かつてロジャー・ムーアは
ジェームズ・ボンド役を降りる理由を聞かれて
これ以上やったら殺されてしまうから
と答えた。6代目ボンド、ダニエル・クレイグの意見は違う。
ケガなんて楽しみの一つさ
と、全身傷だらけになりながら、
ほぼ全てのスタントを自らこなしている。
金髪碧眼という従来のボンドとはかけ離れた容姿に、
当初はバッシングが続出。
作品のボイコット運動にまで発展したにも関わらず、
21作目「カジノ・ロワイヤル」は
007シリーズ史上最高の収益を記録した。
クール一辺倒でなく、あえて感情を前面に押し出した演技も
ショーン・コネリーを超えた!
と絶賛された上、コネリー本人からも
ベストなキャスティングと評された。
クレイグの目下最大の悩みは、有名になりすぎて、
バーで倒れるまで酔っぱらえないことだと言う。
佐藤理人 12年11月18日放送
007シリーズ50周年⑧ ジェームズ・ボンド
恐らくそれは、
イギリスの意地だったのだと思う。
世界最長の映画シリーズ「007」。
主人公ジェームズ・ボンドは
祖国が病める時でも常に
イギリス紳士かくあるべし
という理想であり続けた。
原作によれば彼は
様々な生活習慣病を抱えており、
医者から長生きできないと忠告されている。
それから50年。
今日もボンドは世界の平和を守り続けている。
ステアせず、シェイクした
ウォッカマティーニを傾けながら。
大友美有紀 12年11月17日放送
パウル・クレー「食卓の言葉」
叔父さんのレストラン
ドイツ、表現主義の画家、
パウル・クレー。
美しい色彩とフォルム、
リズムとメロディを感じる絵。
日本でも広く愛されている画家である。
クレーは自分を「奇怪なもの好き」と称する。
その始まりは、叔父フリックのレストランの
大理石のテーブルにあるという。
その表面には化石の断面が折り重なっていた。
この線の迷宮からひとの姿のグロテスク模様を
見つけ出し、鉛筆でなぞっていた。
叔父のレストランはクレーの画家の原点でもあり、
食への興味の原点でもあった。