大友美有紀 19年10月6日放送
楽器の話 指揮棒
音楽を奏でる道具のひとつ、指揮棒が登場したのは、
1810年代とされています。
それ以前は、通奏低音を担う
チェンバロ奏者が主に指示を出していました。
1829年にメンデルスゾーンが
ロンドンで指揮棒を使ったときには、
とても驚かれたといいます。
それから200年余り、
現在では指揮棒を使わない指揮者もいます。
大切なのはどんな音楽を奏でるか、だからです。
佐藤延夫 19年10月5日放送
樹木の話 イチョウ
イチョウの木は、不思議だ。
葉っぱは広葉樹のようなカタチだが、
実は針葉樹の仲間。
しかも1億5000万年前、
ジュラ紀あたりから生き残っている。
そしてギンナンの実は、強い悪臭を放つ。
木材は、まな板などにも加工されるが、
臭いの強いものとそうでないものがあるという。
ちなみに、ギンナンの実がつくのは雌株のみ。
木がある程度大きくなるまで、
雄株と雌株の判別は難しいそうだ。
佐藤延夫 19年10月5日放送
樹木の話 カラマツ
カラマツは、
日本の針葉樹の中で
ただひとつの落葉樹だ。
秋、輝くほどの黄色に色づき、
パラパラと散っていく。
葉が落ちる松なので、落葉松とも言われる。
東北や中部地方の山岳地帯に自生しており、
やがて広く植林されるようになったが、
東京などの暖かい地域ではほとんど見られない。
もしも、東北南部や長野あたりで
美しい黄色の並木を見つけたら
それはきっとカラマツです。
佐藤延夫 19年10月5日放送
樹木の話 クリ
秋を代表する味覚のひとつ、クリ。
古代から人々の食料になったが、
実だけではなく、木材も古くから重用されてきた。
程よい硬さで耐久性に優れ、水にも強い。
また、粘りがあり、
割れたり暴れたりすることも少ない。
鉄道の枕木や土木用材のほか、
工芸品にも多く使われている。
縄文時代の遺跡からも、
クリの木が建築物の土台として
使用されていた形跡が残っているそうだ。
さすが人間は、抜け目がない。
佐藤延夫 19年10月5日放送
Amehare
樹木の話 カツラ
落葉広葉樹のカツラは日本の固有種で、
古事記や万葉集にも登場する。
落ち葉がカラメルのような甘い香りを放つので、
「香りが出る」、「香出(かづ)」というのが
名前の由来とも言われる。
ハート型の葉っぱは小ぶりで可愛く、
秋には美しい黄色に染まる。
木材は柔らかめで加工しやすく、
カツラを素材とする工芸品も多い。
現在の「桂」という漢字が使われる前。
万葉集では、木へんに風、今でいう「楓(かえで)」の文字が
当て字で使われていた。
佐藤延夫 19年10月5日放送
将棋せかい
樹木の話 ツゲ
目が細かくて滑らか。
硬くて粘りがある。
優れた特徴を多く持つツゲの木は、
有用材として様々な用途に使われてきた。
櫛、将棋の駒、印鑑。
昔は定規や機械部材にもなった。
ツゲ製品の産地と言えば、
鹿児島県指宿市と伊豆諸島の御蔵島。
薩摩ツゲは櫛、
御蔵ツゲは将棋の駒が有名だ。
童謡「こぎつね」に登場する「つげの櫛」は、
薩摩ツゲと考えて間違いない。
石橋涼子 19年9月29日放送
T.Kiya
月のはなし 日本の十三夜
夜空に浮かぶ月は、29.5日の周期で変化する。
そのため、昔は、月の満ち欠けがカレンダーだった。
もちろんそれだけではなく、
見上げるたびに変わるお月様の変化を
人々は愛した。
眉月(まゆづき)、弓張り月、下弦の月、…。
月が変わる様子を愛でる名前も美しい。
まんまるいお月様を楽しむ十五夜の風習は、
平安時代に中国から日本へ伝わった。
そしてなぜか、
満月にはほんの少し足りない、
欠けた月を楽しむ十三夜という風習が
日本で独自に生まれた。
変化するもの、完全ではないものに
美と価値を見出す日本らしい楽しみ方かもしれない。
石橋涼子 19年9月29日放送
overQ2.0
月のはなし 桂離宮の月見台
電気のなかった時代、月の存在感は大きかった。
貴族たちは、その眩さを愛でるために
池に船を浮かべ、雅楽を奏で、優雅に月見を楽しんだ。
そして17世紀、八条宮智仁親王(はちじょうのみやとしひとしんのう)が
月見のために建てた別荘が、京都の桂離宮だ。
書院と呼ばれる建物に、月見台がある。
これは名前通り、お月見のための特等席。
庭園の池にせり出す月見台に座って見えるものは、
夜空に浮かぶ満月と、真っ黒い池に浮かぶ、もうひとつの月。
古代中国の詩人、白楽天が
水に浮かぶ月を一粒の真珠に見立てたように、
月見を楽しむ人々は、見上げる月とともに
地上に揺らぐ月の影も愛した。
桂離宮の中には、「浮月(うきづき)」と名付けられた
石造りの小ぶりな水鉢がある。
こんな小さな水面にも月を浮かべようとした
貴族の情熱を見習って、今宵、
手元のグラスに月を浮かべてみてはどうだろう。
熊埜御堂由香 19年9月29日放送
NASA Goddard
月のはなし 売りに出された月の砂
月面は「レゴリス」と呼ばれる砂に覆われている。
1969年に初めて月面歩行を果たしたニール・アームストロング。
彼がその砂を小さなバッグに入れて持ち帰った。
そのバッグは「LUNAR SAMPLE RETURN」、
とラベルが貼られ、数奇な運命をたどることになる。
1980年代にある博物館に貸し出された月の砂のバッグ。
展示品を、秘密裏に売却し続けていたその博物館の館長の
賠償金として、誤ってネットで売りに出されてしまう。
2015年には、
「月の砂入り。ミッション不明」という、いわくつきのタイトルで、
たった995ドルで、イリノイ州の女性の手に渡る。
落札後、NASAの鑑定で貴重品と判明。
取り返そうとしたNASAは女性との訴訟に負けてしまう。
そして、2017年、月面着陸48周年に
公の競売にかけられたそのバッグは180万ドル、
約2億円で落札された。
人の手から、手へと、流転した月の砂。
穏やかに地球を照らす月は、
その様子を微笑んで見ていたかもしれない。
若杉茜 19年9月29日放送
magnusvk
月のはなし 絵のない絵本
アンデルセンの作品、『絵のない絵本』。
主人公は貧しく孤独な絵描きの青年。
夜、寂しさに襲われて、彼が窓の外を見上げると、
そこには故郷と変わりなく輝く懐かしい月がいた。
月は時折やってきて、彼に自分が世界中で見てきたお話しを聞かせるようになる。
彼は、それを絵に描いていく。月が彼に聞かせるのは、絵を持たない絵本なのだ。
月はどこにいても出会える懐かしい存在として、優しく世界を照らしてくれる。
そして今日も私たちの人生を、そっと見守っている。
ずいぶん遠くにきてしまったなあ、
と思った時には、月を見上げてみるのもいいかもしれない。