澁江俊一

澁江俊一 18年11月11日放送

181111-02

食欲と落語

秋と言えば食欲の秋。

人間の「食べたい」という
抑えがたい欲望を見事に描いた
古典落語「千両みかん」。

病に倒れ、みかんを食べたいと願う
若旦那のため、真夏にも関わらず
探し回る番頭。

ようやくひとつだけ見つけた
腐っていないみかんには
なんと千両もの値がついてしまう。
それでも旦那はせがれを救うため
惜しげもなく大金を投じる。

念願果たした若旦那の
食べ残したわずかなみかんを
思わず持ち逃げする番頭・・・

笑いながら聞いているうちに
なんともみかんが食べたくなる、
粋な噺である。

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澁江俊一 18年11月11日放送

181111-03
Cea.
食欲と神様

秋と言えば食欲の秋。

食欲は性欲や睡眠欲と並ぶ
人間の根源的な欲求だ。
今でこそ食欲旺盛な人は多いが
かつて宗教は食欲を
良からぬものとみなしていた。

ブッダの言葉では

 およそ苦しみが起こるのは、
 すべて食料を縁として起こる。
 諸々の食料が消滅するならば、
 もはや苦しみの生ずることもない。

と断食を大切な修行の一つとするし、聖書にも

 あなたが食欲の盛んな人であるなら、
 あなたののどに短刀を当てよ。

と食べ過ぎをたしなめる。イスラム教では
ラマダンという断食の期間があるほどだ。

いつでも食欲を満たせるのは幸せなこと。
でもだからこそ、時には食欲を我慢してみると、
意外な悟りが開ける…かもしれない。

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田中真輝 18年11月11日放送

181111-04

食欲色の季節

秋と言えば食欲の秋。

食欲と色との間に密接な関係があることを
ご存じだろうか。

赤や黄、橙などの暖色は人間の食欲を
促進する「食欲色」と呼ばれている。
また、赤の補色である緑も、差し色として
使うことで、強すぎる赤を抑えつつ、
お互いを引き立てることができる。

また、白や黒も日本人にとっては食欲を
そそる色。そう、それは白米と海苔の色。
一方、外国の人にとって、黒は食欲を損なう色。
カリフォルニアロールが海苔を内側に
巻き込んでいるのは、それが理由なのだ。

秋といえば紅葉。まさに食欲色に色づく季節。
食欲の秋と言われる理由はそのあたりにも
あるのかもしれない。

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澁江俊一 18年11月11日放送

181111-05
aron1937
食欲と進化

秋と言えば食欲の秋。

この食欲とどう向き合うかが、
人類の進化につながったという説がある。
サルはエサをはさんで向かい合うと
弱いほうが手をひっこめる。
強い者が独占する。それがサル社会のルールだ。

しかし類人猿は食物を分配する。
しかも弱いほうが強い方に
それをねだって獲得するのだ。
類人猿のルールでは
サルとは真逆の方向に食物が移っていく。
 
人間はもっと気前よく
相手と一緒に食べようとする。
だからこそ助け合う関係が生まれた。

こういう説を聞くと
人間って捨てたもんじゃないと思えてくる。
さて今夜は誰と、何を食べようか?

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田中真輝 18年11月11日放送

181111-06
erin & camera
カワイイ臓器

秋と言えば食欲の秋。

お腹いっぱい食べて満腹のはずなのに、デザートを
見ると食べたくなる。いわゆる「別腹」。
もちろん、胃袋が二つあるわけもなく、
この別腹、いったいどこにあるのか。
実は人間の食欲は、脳からの命令によって
コントロールされている。

大好きな食べ物を見ると、脳の視床下部から、
「オレキシン」というホルモンが分泌され、
このホルモンが、胃袋の蠕動運動を刺激すると…
あら不思議。さっきまで一杯だった胃袋に
新たなスペースが生まれる、という仕組み。

英語ではdessert stomachとも言う別腹だが、
つまり、デザートに限らず、肉でも魚でも
大好物が出てくれば、別腹は生まれるということ。

食べたい気持ちに反応して頑張ってくれるなんて、
胃袋って、なんだかカワイイ臓器だな、と思えてくる。

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田中真輝 18年11月11日放送

181111-07
銀猫 夏生
おいしい一瞬

秋と言えば食欲の秋。

コマーシャルやテレビ番組などで、食品を美味しそうに
見せる映像を「シズルカット」と呼ぶ。
もっとシズル感を強く、というのは、
もっと美味しそうに、という意味だ。

この「シズル」という言葉、
肉がジュージュー焼けて、肉汁がしたたり落ちている
様子を表す英語が由来だという。
「シズル感」は、食品のコマーシャルではとても重要な要素。
一瞬で美味しそう!と思わせられるかどうかに
制作スタッフは心血を注ぐ。

ふわっと立ち上る湯気、グラスの表面を流れ落ちる水滴、
シズル感溢れる瞬間をとらえるために、何時間も撮影を
続ける。あなたが美味しそう!と感じたその一瞬は、
膨大な撮影素材の中の、一番おいしいひとくちなのだ。

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澁江俊一 18年11月11日放送

181111-08
shiniwate.kouhou
食欲と昆虫

秋と言えば食欲の秋。

少しだけ未来の食欲の話をしよう。
今、新たな食料として昆虫が
注目されているのをご存知だろうか?

コオロギやバッタ、芋虫など
タンパク質や脂質が豊富で
必要な栄養を満たす昆虫は多いという。
しかもアンモニアやメタンガスを出す家畜より、
地球にダメージを与えにくい。

蜂の子やイナゴなど
日本ではもともと昆虫をよく食べていたから
心理的ハードルは、意外と低いはずだ。

この星の人口は今後も増え続け
いずれは食糧難も予測されている。
人類が昆虫を見る目も、変わるべき時かもしれない。

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奥村広乃 18年10月14日放送

181014-01
Photo by jamesjustin
原宿と浮世絵

若者文化の街。
原宿。
その賑やかな通りを
一本入った所に、
「太田記念美術館」はある。

そこは浮世絵を展示する美術館。

作品を保護するため薄暗い館内。
訪れる人は思わず小声になる。
そして緻密に描かれた人物や、
美しい色彩の景色に見入るのだ。
海外からも
多くの観光客が足を運んでいるという。

最新のポップカルチャーと
江戸庶民の芸術。
原宿で、2つの文化を
味わってみるのはいかがだろう。

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澁江俊一 18年10月14日放送

181014-02

北斎と円

世界中の芸術家に影響を与えた
日本を代表する画家、葛飾北斎。

北斎が絵を描くときに使っていたのは
筆だけではない。
ぶんまわしと呼ばれる
竹で作られたコンパスを使って
いくつもの円を書きながら
北斎は絵の構図を決めていた。
最も有名な神奈川沖浪裏も
19の円を描いて構図を決めたとされている。

すべてのものはぶんまわしと
定規があれば書けるとも語っていた北斎。
何気ない風景の中にも
たくさんの円と線が見えていたのだろう。

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澁江俊一 18年10月14日放送

181014-03

北斎と白紙

世界中の芸術家に影響を与えた
日本を代表する画家、葛飾北斎。

彼が90回以上も
引越しを繰り返したことは
よく知られているが
自分の名前さえ30回も変えている。
北斎はその1つに過ぎない。

すべては絵を描くことに集中するため。
肉筆浮世絵や挿絵、版画、
人物画や春画や風景画、そして北斎漫画。
次々と新しい領域に挑戦し続けた北斎。

天があと5年の間、
命保つことを私に許されたなら、
必ずやまさに本物といえる画工になり得たであろう。
と言い残し、90歳で世を去った。

引越しや改名を何度も何度も繰り返すことで
自らを常に真っ白な紙のような状態にしながら
北斎は自分の理想の絵を
追い続けていたのかもしれない。

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