雨の演技
映画監督にとって、
雨に演技をさせるのも仕事の一つだ。
黒澤明は、
1950年公開の「羅生門」で土砂降りの雨を
モノクロフィルムに焼き付けるため、
墨汁を混ぜた水を放水車で降らせた。
重々しさのある雨の雫は、
誰ひとり信用できない、
という人間心理の底知れぬ不安を
見事に浮かび上がらせた。
その2年後に
カラー映画で公開されたのが「雨に唄えば」。
土砂降りの雨の中、監督も務めたジーン・ケリーが
幸せそうに踊る名シーンは
天国のように美しいと評された。
この雨に混ぜられていたのは真っ白なミルクだった。
黒と白の二つの雨。
どちらも今なお世界中の人々に愛されてやまない、
映画史に残る傑作を彩った。