伊兵衛のおばこ
今日は写真家、木村伊兵衛の命日。
ライカを手にして日本を旅し、
普通の人々の日常を鮮やかに切りとる。
スナップ写真の達人だった木村伊兵衛。
中でも伊兵衛が愛したのは秋田県。
何度も訪れては、農村の風景を次々とフィルムに焼き付けた。
その中に、
見る人の目を釘付けにする一枚がある。
若い娘をあらわす方言で「おばこ」と名づけられた
一人の娘の写真だ。
今見ても圧倒的に美しい、透明なまなざし。
編み笠をかぶり、野良着を着て、
田植えをしている最中の農家の娘のように見えるが
彼女はその時、農作業をしていたわけではなかった。
後に秋田美人の象徴とも言われた一枚は、
実は、木村伊兵衛の見事な演出だったのだ。
女性にとってリアルは、美ではないこともある。
リアリティを追いかけながら、
女性の美に関しては、時に鮮やかに嘘をつく。
木村伊兵衛が女性ポートレイトの名手、と称された理由も
そこにあるのかもしれない。