澁江俊一

澁江俊一 14年4月27日放送

140427-03

反抗し続ける哲学者

今日、4月27日は哲学の日。

戦後日本を代表する哲学者、鶴見俊輔。
彼の母、愛子はあまりに厳しい母だった。
大きな家に生まれた人間は必ず悪人になると信じ、
息子に成功や出世を目指すことをまったく望まず、
地道な仕事に就くことを心から願っていた。
そういう彼女の父は、明治日本の超大物、後藤新平なのだから
その複雑な心境は、想像するに余りある。

柱に縛りつけ、何度もひっぱたき、お前は悪人だ!となじる。
激しい折檻を繰り返す母に、幼い俊輔は徹底的に反抗する。
門限を破り、無理にたばこを吸い、
万引きをし、同級生をいじめ、何度も自殺未遂をはかる。
当然、友達はいない。学校に行かず読書にふけった。
中学も2度退学し、逃げるようにアメリカに渡った俊輔は
生まれ変わったように勉強し、ハーバード大学でトップの成績をおさめた。
戦後は常に弱者や少数者の側に立ち、権力に反抗する哲学者として活躍する。
まるで母が望んだ地道な人生を、すべて肯定するかのように。

鶴見俊輔は後に、母について、こう語っている。

 私のあらゆる著作は、
 おふくろが私にした仕打ちに対する答です。

母の暴力の奥深くにあるゆがんだ愛を、
鶴見は痛いほどわかっていたのだ。

topへ

奥村広乃 14年4月27日放送

140427-04

早起きが苦手な哲学者

今日、4月27日は哲学の日。

「我思う、ゆえに我あり。」で知られる
哲学者ルネ・デカルトは早起きが苦手だった。

10歳で名門ラ・フレーシュ学院に入学したが、
生まれつき身体が弱く朝寝坊を許されていた彼は、
ベッドの中でさまざまな事を考えるようになる。

精神を向上させるためには、
学ぶことよりもより多く熟考していくべきである。

デカルトにとっては、
自分自身で考え抜くことが、
人間として生きることなのだ。

晩年、デカルトは
スウェーデンの女王のために授業を行うが、
毎朝5時からの授業は早起きが苦手なデカルトの身体に堪え、
たちまち体調をくずし、肺炎で亡くなった。

デカルトはこんな言葉も残している。

 精神を思う存分働かせたいと願うなら、
 体の健康に留意することだ。

topへ

澁江俊一 14年4月27日放送

140427-05

考える哲学者

今日、4月27日は哲学の日。

哲学、という言葉が持つ
抽象的でとっつきづらい空気を
考える、という言葉で、
すべての人のものにしようとした池田晶子。

哲学者ではなく、文筆家と名乗り
他の哲学者たちと一線を画した池田は
2007年、46歳の若さで世を去った。

彼女は決してやさしいだけではなく、
考えることをしない世の中に、
厳しい言葉も残している。

 地球人類は失敗しました。
 生存していることの意味を問おうとせず、
 生存することそれ自体が価値だと思って、ただ生き延びようとしてきた。
 医学なども、なぜ生きるのかを問わず、
 ただ生きようとすることで進歩した。

 人がものを考えないのは、死を身近に見ないからだと思う。
 一番強いインパクトは死です。人がものを考え、
 自覚的に生き始めるための契機は死を知ることです。
 精神の在り方が変わらなければ、
 世の中は決して変わりません。

死の瞬間、池田は何を考えたのか。
それを考えてみることも、私たちの宿題だ。

topへ

礒部建多 14年4月27日放送

140427-06

音楽と哲学者

今日、4月27日は哲学の日。

哲学者には、音楽を愛する者が多い。
ピタゴラスは、純正音階を考え出した。
ルソーは、日本ではむすんでひらいての童謡で知られる
オペラ「村の占い師」を残した。

若いニーチェもまた、哲学に傾倒する前、
精力的な作曲活動に取り組んでいた。
正式な音楽教育は受けず、自分の耳を頼りに
13歳で初めての曲「From ”Allegro”」を完成させる。

数多くの作品を残すものの、注目も、評価もされなかった。
限界を感じ、音楽から遠ざかりながらも、
ニーチェの思想の片隅には、常に音楽への強い想いがあった。

著書、「悲劇の誕生」では、
他の芸術よりも音楽を
遥かに優れたものとして扱っている。

もしかしたらニーチェは、音楽家として生きる夢を、
最期まで捨てきれなかったのかもしれない。
晩年には、こんな言葉を残している。

 私ほど、本質的に音楽家であった哲学者はいない。

topへ

奥村広乃 14年4月27日放送

140427-07

お酒と哲学者

今日、4月27日は哲学の日。

ドイツの哲学者イマヌエル・カント。
批判哲学を提唱し、
ドイツ古典主義哲学の父と言われている。

彼の書いた哲学書が難しいせいか、
気難しい孤独な老人を想像する人も多い。
しかし実際は、話題が豊富でおもしろく、
貴族の食事会によく招かれる人物であった。

カントはこんな言葉を残している。

 酒は口を軽快にする。
 だが、酒はさらに心を打ち明けさせる。
 こうして酒は道徳的性質、
 つまり心の素直さを運ぶ物質である。

お酒を飲むと素直になれる。
哲学者も我々も、それは変わらないようだ。

topへ

礒部建多 14年4月27日放送

140427-08
Robert Snache
夜空と哲学者

今日、4月27日は哲学の日。

「万物の根源は水である」と唱えたことで知られる
記録に残る最古の哲学者、タレス。

古代ギリシアの名家に生まれ、
幼い頃から様々な才能に恵まれたタレスは、
天文学が好きで毎夜、空を見上げては星を観察していた。

ある日、夜空に夢中になるあまり、
タレスは溝に気づかず落ちてしまう。
通りかかった女性は、その姿を見て
「学者は遠い星のことはわかっても、自分の足元のことはわからないのか」
と笑ったという。

それでもタレスは、夜空を見上げた。
そして後に、世界で初めて日食の存在を
予測したと言われている。

足元ばかり見ては、何も生まれない。
タレスが、いつもそうしていたように、
たまには春の夜空を見上げて、歩いてみよう。

topへ

奥村広乃 14年3月2日放送



大きな喜び

イギリスのジャーナリスト、ウォルター・バジョット。
雑誌『エコノミスト』の編集長も務めた彼は、
こんな言葉を残している。

人生における大きな喜びは、
君にはできないと世間がいうことをやることである。

 無理だよ。
 絶対、出来ないよ。

そんなネガティブな言葉をかけられた時。
それは、大きな幸せのタネかもしれない。

 悔しがって、
 努力して、
 達成する。

かんたんじゃないことこそ、
やる価値があるのだ。

topへ

礒部建多 14年3月2日放送


NASA’s Marshall Space Flight Center
宇宙への試験

 「驚きの連続だった。
  地球が足元で回っており、息をのんだ。」

夢が叶った瞬間の興奮を、
野口聡一は宇宙から、こう語った。

小学生の頃から「宇宙飛行士」を
夢に見続けた野口だが、
大学受験では浪人を経験。
第一志望の会社にも入れなかったが
回り道をしながらも夢を諦めなかった。

転機が訪れたのは1996年。
JAXAによる、宇宙飛行士の公募だった。
野口は、長年の夢に全てをかけて
倍率572倍の狭き門を見事突破。
31歳の時だった。

「夢の実現は、夢じゃない。」

そう語る野口の姿に
勇気をもらった人は、星の数ほどいる。

topへ

澁江俊一 14年3月2日放送



受験生のための言葉

ああ、試験はいやだ。
人間の価値が、わずか一時間や二時間の試験で、
どしどし決定せられるというのは、恐ろしい事だ。
それは、神を犯す事だ。
試験官は、みんな地獄へ行くだろう。

太宰治の小説「正義と微笑(せいぎとびしょう)」の
主人公「僕」の言葉だ。
彼が慕う若き教師、黒田先生はこう語った。

 日常の生活に
 直接役に立たないような勉強こそ、
 将来、君たちの人格を完成させるのだ。
 何も自分の知識を誇る必要はない。
 勉強して、それから、
 けろりと忘れてもいいんだ。
 覚えるということが大事なのではなくて、
 大事なのは、カルチベートされるということなんだ。
 カルチュアというのは、
 公式や単語をたくさん暗記している事でなくて、
 心を広く持つという事なんだ。
 つまり、愛するという事を知る事だ。

迷いながら生きる16歳の主人公の心に
深く届いたこの言葉。
今日もがんばる受験生にも
届きますように。

topへ

奥村広乃 14年3月2日放送



努力論

『五重塔』『運命』などの作品で知られる
明治の小説家、幸田露伴。
彼には『努力論』という随筆がある。

努力は即ち生活の充実である。
努力は即ち各人自己の発展である。
努力は即ち生の意義である。

努力は、
楽しいものでも、
すぐに報われるものでもない。

それでも、
幸せに生きたいと思ったときは、
理想にむけて地道な努力を続けることが
一番の近道なのだ。

topへ


login