澁江組・田中真輝

田中真輝 16年7月10日放送

160710-02

鉢叩き

今日は、納豆の日。

古来より、人々の暮らしの中にあった納豆。
多くの歌人もその存在を歌に詠み込んでいる。

松尾芭蕉もその一人。

「納豆きる 音しばしまて 鉢叩」

鉢叩きとは師走の夜に、手に持った鉢を
叩きながら物乞いをした念仏僧のこと。

寒い夜、暖かい納豆汁を作るために
とんとんと納豆を切っていると、
チーンチーンと鉢を叩く音が聞こえて来る。

しばし手を止めて、
寒風の中、托鉢する僧の姿に想いを馳せる。
そんな芭蕉の心の温かさが
納豆汁の香りとともに、ふんわりと漂うような
一句である。

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田中真輝 16年7月10日放送

160710-05
Jun Seita
いつかは蟹味噌

今日、7月10日は納豆の日。

かの食通、北大路魯山人は、
その著書の中で、
「納豆は糸の姿がなくなってどろどろになるまで
よく攪拌する」と語っている。

ある実験では、
100回の攪拌で、アミノ酸が約1.5倍、
300回で2.5倍に。
また、甘み成分は100回で2.3倍、
400回で4.2倍と、攪拌するほど、
旨みと甘みが強くなる、という結果も
示されている。

ちなみに、1万回混ぜると、その姿は
ペースト状になり、味は蟹味噌に
近くなるという実験結果も。

時間に余裕のある方は、
チャレンジしてみてはいかがだろうか。

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田中真輝 16年7月10日放送

160710-07
hepp
くさいはうまいか

今日は、納豆の日。

納豆は臭いから苦手
という人は多いが
臭さではさらに上をいく食品がある。

発酵食品分野の権威、
小泉武夫教授らが開発した
アラバスターという機器で測定すると、
納豆の臭気数値は452。

そして、世界一臭い食べ物とされている、
スウェーデンの塩漬けニシンの缶詰、
シュールストレミングの数値はなんと8070。

小泉はその著作の中で、
その匂いを「腐敗したタマネギに、
くさやの漬け汁を加え、それにブルーチーズとフナ鮓、
古くなったダイコンの糠漬け、さらには道端に落ちて靴に
踏まれたギンナンを混ぜ合わせたような
空前絶後の凄絶なにおい」
と表現している。

そしてその味については
「やや不味い部類」とのことである。

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田中真輝 16年5月8日放送

160508-02
Well Oiled Machines
正義のパン

今日は、
第二次世界大戦で命を失った
全ての人に追悼を捧げる日。

本当の正義とは何か。
24歳で中国に出征したやなせたかしが
たどり着いた答えが、
アンパンマンだった。

本当の正義とは、献身と愛だ。
目の前で餓死しそうな人に
一片のパンを差し出すことだ。
たとえ自分がお腹が空いて
死にそうになっていても。

アンパンマンマーチの歌詞にも
やなせの信念は溢れている。

 そうだ うれしいんだ 生きる喜び
 たとえ 胸のキズがいたんでも

国歌のように地球の歌があるなら、
それはアンパンマンマーチであるべきだ。

そう思いませんか?

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田中真輝 16年5月8日放送

160508-04

うつろな足音

今日は、
第二次世界大戦で命を失った
全ての人に追悼を捧げる日。

二つの世界大戦の、ちょうど間を
生きた文豪、芥川龍之介は戦争について
こう述べている。

我々に武器をとらしめるものは、
いつも敵に対する恐怖である。
しかも、しばしば実在しない架空の敵に
対する恐怖である。

関東大震災のあと、芥川龍之介は
戦争が忍び寄るうつろな足音を確かに聞いていた。

今を生きる私たちが注意深く耳をすます時、
聞こえるのはどんな音だろうか。

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田中真輝 16年5月8日放送

160508-06

喜劇俳優の怒り

今日は、
第二次世界大戦で命を失った
全ての人に追悼を捧げる日。

戦争についての最も力強いスピーチの一つは
ある映画のラストシーンで行われた。

その映画とはチャップリンの「独裁者」。
無言のパフォーマンスで有名な稀代の喜劇俳優は
そのラストシーンで6分間もの間、見る者に
熱く訴え続けた。

貧困と争いに満ちた世界の中にあっても、
決して絶望してはいけない。
人間には、人生を自由に美しいものに、
素晴らしい冒険にする力があるのだ、と。

その表情は真剣さというよりは、むしろ
怒りと悲しみに満ちているように見える。

喜劇と無言、という持ち味を捨ててまで
チャップリンが伝えたかった6分間のメッセージを
ぜひ一度、ご覧ください。

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田中真輝 16年5月8日放送

160508-08

深い河

今日は、
第二次世界大戦で命を失った
全ての人に追悼を捧げる日。

人はなぜ争うのか。

宇多田ヒカルのDEEP RIVERという曲には
こんな歌詞がある。

剣と剣がぶつかり合う音を
知るために託された剣じゃないの
そんな矛盾で誰を守れるの

主義や主張は、ぶつけあうために
あるものではないはず。
しかし、それは往々にしてぶつかりあう
という矛盾を孕んでいる。

人が争い合うことの根元が
その歌詞に表現されている。

深い河は、人を隔てるものなのか。
それとも、主義の違いを包み込むものなのか。

あなたはどう思いますか?

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田中真輝 16年3月13日放送

160313-02

扁額

今日、3月13日は
青函トンネル開通記念日。

このトンネルの北海道側、本州側二つの入り口には
「扁額(へんがく)」と呼ばれる横長の額がかけられており、
そこには「青函隧道」という文字が記されている。

北海道側の文字を書いたのは
当時の内閣総理大臣、中曽根康弘。
本州側は運輸大臣、橋本龍太郎である。

青函トンネルが開通した1988年の1年前に
国鉄は民営化されているが、
この民営化計画を強力に推進し、実質的に
国鉄に引導を渡したのが、実は、この二人。

青函トンネルの両側に
この二人の文字が掲げられたとき、
旧国鉄の職員達は
新しい時代の到来を強く感じたことだろう。

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田中真輝 16年3月13日放送

160313-05
sjrankin
祝電

今日、3月13日は
青函トンネル開通記念日。

「海峡」は、
この青函トンネル建設の物語を描いた映画である。
高倉健、吉永小百合ら、スターが総出演する中、
総号令、岸田源助を演じたのが名優、森繁久弥。

彼は、青函トンネルが開通したとき、
こんな祝電を送っている。

「世紀の青函に風が通る。誰がなんと言おうと
この大事業に万歳を送る。讃えるべし、
人間の小さき力をもって、この大事業を
なしえたことを。遥か東京の空から盃をあげる。乾杯!」

「無用の長物」と罵られることもあった
当時の社会情勢の中、
森繁の力強い言葉は、トンネルマンたちの心の中を
爽やかな風となって吹き抜けたに違いない。

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田中真輝 16年3月13日放送

160313-06
*nog
悲しみという魅力

今日、3月13日は
青函トンネル開通記念日。

そのトンネルが潜り抜ける津軽海峡を歌った
名曲、津軽海峡・冬景色。
歌詞を書いた阿久悠は
かつてこう語ったことがある。

あの歌のせいで、
青森は暗く悲しいところだと思い込まれ迷惑している、
と言われて、僕はこう答えた。
悲しいと感じられる情緒は、
これ以上の名産はないかもしれない、と。
日本が経済至上主義になり、
風土や風情がなくなりかけていた時代、
悲しみさえ魅惑になりうると思ったのである。

時を越えて、誰もがこの曲に心揺さぶられるのは、
失われゆくものへの哀切に、
日本人としての、いや人としての
魂が共鳴するからかもしれない。

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