Risto Kaijaluoto
無名の手
今日、3月13日は
青函トンネル開通記念日。
ここに一人の男がいる。
青森県、今別町(まち)生まれ。
23歳のとき、
漁師をやめて青函トンネルを掘る仕事に就いた。
結婚したばかりで、
来年の春には子供が生まれる予定だった。
トンネルの中は暑く湿っていて、
いつも海鳴りのように採掘の音が響いていた。
毎日男は穴を掘り続けた。
夜勤のあとに見る眩しい朝日が好きだった。
事故があった。友を失った。それでも掘り続けた。
やがて最後の発破が鳴り響く。トンネルに風が吹いた。
息子は、はたちになっていた。
そんな男の名前を、誰も知らない。
世界は、そんな無名の人間の、無数の手で作られてきた。
世界はそうして作られていく。これからも。