澁江組・田中真輝

田中真輝 17年7月23日放送

170723-07
Rikki Chan
泣けるSF

アメリカ人作家、ケン・リュウ。
彼は今、SFシーンで、最も注目される作家の一人である。

又吉直樹が紹介したことで話題になった
「紙の動物園」を含め、その著作には中国や台湾、
そして日本など、アジアを舞台にした作品が多い。
そこにあるのは、西洋的な合理性への東洋思想的な
視点からのアンチテーゼだ。

彼はあるインタビューでこう語っている。
「現代社会は合理性を追求して発展してきたけれど、
ぼくはそれが正しいことだとは思わない。
合理性は感情を追い払ってしまうからだ。

そして最も道徳的なコミットメントとは、
合理的に行われるものではなく、感情的に
行われるものだからだ

その言葉の通り、彼の著作はとにかく、泣ける。
SFで泣くなんて、そう思ったあなたにぜひ
お勧めしたい作家である。

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田中真輝 17年7月23日放送

170723-08
strogoscope
SFの未来

小説「ニューロマンサー」でサイバーパンクという
SFの一ジャンルを拓いた作家、ウィリアム・ギブソン。

彼の世界観に影響を受けた作品は、「攻殻機動隊」や
映画「マトリックス」を始め、枚挙に暇がない。
そんな彼の有名な言葉。

「もう未来は到来している。ただ均等に与えられて
いないだけだ」

インターネットの出現によって、わたしたちは
ダイナミックかつ加速度的な変化に直面している。
AI、VR、そしてブロックチェーン。

飛び交う言葉や概念は最早SFとも見まごうばかり。
未来はもう到来している。しかもかなり均等に。
であるならば、今、わたしたちを駆り立てる
未来は、一体どこにあるのか。

現実よりもさらに速く、SFは加速しなければならない。
想像力の果てを超えて。

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田中真輝 17年5月14日放送

170514-02
西表カイネコ
ハウリング・ウルフ

明日5月15日は、沖縄が日本に復帰した日。

「沖縄のジミヘン」と
呼ばれた人物をご存知だろうか。
彼の名は、登川誠仁。
沖縄民謡界の巨人とも称される
三線の名手で特に早弾きを得意とすることから、
その異名がついた。

沖縄民謡だけではなく、
エレキギターを使った演奏や
洋楽を大胆にアレンジするジャンルを超えたその
スタイルは、登川のソウルに貫かれている。

苦みばしったその声と、三線の調べから漂うのは
ブルースにも似た悲しみと突き抜ける明るさ。
ソロアルバム「ハウリング・ウルフ」には、
そんな魂の叫びが詰まっている。
その歌声は、沖縄の抜けるような青空に
どこまでも吸い込まれていく。

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田中真輝 17年5月14日放送

170514-04

ブシマツムラ

明日5月15日は、沖縄が日本に復帰した日。

東京オリンピックで正式種目に採用された「空手」。
その起源とも言われる琉球空手、草創期の偉人に、
松村宗棍(まつむらそうこん)という人物がいる。

「ブシマツムラ」と呼ばれ
世の名声を欲しいままにした武術家松村には、
こんなエピソードが残されている。

ある時、王の命を受けて、
猛牛と戦うことになった松村は、
毎日、黒装束に鉄の扇を持って牛舎に通い、
猛り狂う猛牛の頭にその扇を打ち下ろし続けた。

松村への恐怖を植え付けられた
猛牛は、戦いの当日、
彼の姿を見るなり
恐怖の叫びとともに逃げ去ったという。

戦うことなく勝利を収める。
武術だけではなく智術にも長けた人物だからこそ、
偉人となりえたことを表す痛快なエピソードである。

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田中真輝 17年5月14日放送

170514-07

飛び安里たち

明日5月15日は、沖縄が日本に復帰した日。

沖縄には、
ライト兄弟よりも早く空を飛んだ人物がいる、
そう聞いたら、あなたは
まゆにつばをつけるかもしれない。

安里周當(あさと しゅうとう)は、
18世紀、琉球王家に仕えた花火職人。
空を飛びたいという夢に取り憑かれ、
飛行実験を繰り返した彼は、
やがて「飛び安里」と呼ばれるようになる。

一説には、
オーソニコプターと呼ばれる仕組みの飛行機で、
1787年、彼は空を飛んだ、と伝えられている。

残念ながら、その設計図は消失し、
伝承としてその逸話が残るのみ。

しかし、
歴史として残っているものだけが真実とは限らない。
大空に挑戦しその夢を叶えた者が、
私たちが知る歴史の裏側に、
数え切れないほど存在するかもしれない。
琉球の花火職人、飛び安里のように。

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田中真輝 17年5月14日放送

170514-08

ぬちどぅ宝

明日5月15日は、沖縄が日本に復帰した日。

琉球王朝最後の王、尚泰王。
1879年、明治政府によって行われた廃藩置県により、
琉球王朝は消滅、彼は首里城を去ることになる。

 戦世(いくさゆ)んしまち
 みるく世ややがてぃ
 嘆くなよ臣下 命(ぬち)どぅ宝

 「戦世」は終わった
 平和な「弥勒世」がやがて来る
 嘆くなよ、おまえたち、命こそ宝

この言葉は、
琉球王国の終焉を描いた沖縄芝居の中で
城を去る尚泰王が口にしたセリフだと言われている。

琉球、そして沖縄。
時代を超えて、その地に生きる
人々の祈りが込められた言葉。
それは日本に生きるすべての者が、
深く胸に刻むべき言葉でもある。

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田中真輝 17年3月12日放送

170312-06

絶望という力

今日は、ヒッピーの父、ジャック・ケルアックの誕生日。

ヒッピー運動とともに反戦のシンボルとして
世界中に広まった、ピースマーク。
これをデザインしたイギリス人アーティスト、
ジェラード・ホルトムは、ピースマークが
表すものについて、こう語っている。

 それは、ゴヤの描いた銃殺される直前の農民の姿。
 腕を下ろし、手のひらを外側に向けている。
 わたしが描いたのは、絶望する人間の姿であり、
 わたし自身の姿でもあるのだ。

平和を象徴するマークは、実は絶望の象徴でもある。
浮ついた理想ではなく、悲しみと怒りに彩られた
デザインだからこそ、強い力を持ち得たのかもしれない。

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田中真輝 17年3月12日放送

170312-07

ヒッピーのおかげ

今日は、ヒッピーの父、ジャック・ケルアックの誕生日。

ヒッピーコミューンを支えるために生まれた
伝説的な雑誌、「ホール・アース・カタログ」。
この雑誌を創刊したスチュアート・ブランドは
「すべてはヒッピーのおかげ」というエッセイで
こう語っている。

 カウンターカルチャーが中央の権威に対して持つ軽蔑が、
 リーダーのいないインターネットばかりか、すべての
 パーソナル・コンピューター革命の哲学的基礎となった。

そして、この雑誌が廃刊するときに、裏表紙を
飾った言葉こそ、“Stay hungry, Stay foolish”
スティーブ・ジョブズがその言葉を引用したという
事実は、あまりに多くを物語っている。

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田中真輝 17年3月12日放送

170312-08
Winston J.Vargas
魂の歌声

今日は、ヒッピーの父、ジャック・ケルアックの誕生日。

彼がヒッピーの父なら、
ヒッピーの母とも呼ぶべき人物は、
ジャニス・ジョプリンかもしれない。

ボヘミアンファッションに身を包み、全身全霊で
愛と孤独を歌った女性シンガー、ジャニス・ジョプリンは
ヒッピー世代のアイコンとして、27年という短い人生を
駆け抜けた。

彼女は言う。
あなたは、あなたが妥協したものになる。
そして、妥協せず、戦い続ければ最後には
なりたいものになれる、と。

彼女の戦い続けた魂は、歌声となって、
今も、わたしたちに問いかける。
あなたは妥協せずに戦い続けているか、と。

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田中真輝 17年1月15日放送

170115-02

オーデュポンの魂

今年、2017年は、酉年。
ジョン・ジェームズ・オーデュポンは
アメリカの画家・鳥類研究家。

1827年、彼は12年の歳月をかけて完成させた
全4巻の図鑑「アメリカの鳥類」を出版する。
そこには彼が描いた453枚の彩色銅版画が
収められていた。驚くべきはそのサイズ。
この図鑑、縦が1メートル、横が68センチもあり、
大人二人掛かりでないと持ち運べないほどの超大判なのだ。

実物大で生き生きと描かれた鳥類の姿は、
見るものを、ただ圧倒する。
それは、人生をかけて鳥を見つめ続けた
オーデュポンの魂そのものを、そこに
見るからに他ならない。

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