澁江組・田中真輝

澁江俊一 17年1月15日放送

170115-04
Augustus Binu
恐怖に魅せられた男

今年、2017年は、酉年。

アルフレッド・ヒッチコック監督の映画、
「鳥」は、大量の鳥たちに訳もなく襲われ続ける
人々の姿が描かれるサスペンスムービーの傑作。
その不条理さ、得体の知れない怖さに、
ヒッチコックの真骨頂を見ることができる。

ではなぜ、鳥なのか。
ヒッチコックはあるインタビューでこう答えている。
「恐怖を取り除く唯一の方法は、
 それを映画にしてしまうことだ」
ヒッチコックは、鳥に得体の知れない恐ろしさを感じ、
また一方で、その恐怖に魅せられていたに違いない。

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澁江俊一 17年1月15日放送

170115-06

天才絵師のトリック

今年、2017年は、酉年。

江戸時代に活躍した天才絵師、伊藤若冲。
彼は鶏をこよなく愛し、動植物をモチーフにした
作品集「動植綵絵(どうしょくさいえ)」シリーズ
全30点のうち、実に8点が鶏を描いたものである。

中でも「群鶏図」は圧巻。
13羽の鶏が絵の中でひしめきあい、あたかも
動き回っているような錯覚すら覚える。

実は、この錯覚を引き起こすために、若冲は
様々な仕掛けを意図的に施している。
せわしなく動き回る鶏たちを眺めながら、
次はどんな仕掛けで驚かせてやろうか、と
ほくそ笑む若冲の姿が眼に浮かぶようだ。

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澁江俊一 17年1月15日放送

170115-08

飛翔への憧れ

今年、2017年は、酉年。

レオナルド・ダ・ヴィンチが残した
膨大な手稿の中に、36ページからなる
「鳥の飛翔に関する手稿」というメモがある。
そこには、鳥が飛翔するための力学構造についての
考察が詳細にまとめられている。
この先見性と挑戦心に満ちた手稿の裏表紙に、
ダ・ヴィンチはこう記している。

「巨大な鳥は、偉大なチェチェロ山の頂きから初飛行を行い、
 全世界を驚嘆の声で満たし、すべての書物をその名声で
 満たすであろう。」

その予言は現実となり、わたしたちは、空へ、そして
さらなる宇宙へと飛び立とうとしている。
鳥たちへの憧れを胸に。

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田中真輝 16年11月20日放送

161120-07

窓際のトットちゃん

今日は、世界子どもの日。

小説「窓際のトットちゃん」は、黒柳徹子作の
ノンフィクション自伝。
そこには、落ち着きがない問題児として、
転校を余儀なくされたトットちゃんが、
「トモエ学園」という新しい小学校で、
のびのびと成長していく姿が描かれている。
人と同じようにできないことから、幼心に疎外感を
抱えたトットちゃんに、トモエ学園の校長先生は
繰り返し、こう語りかける。

「君は、本当は、いい子なんだよ」

トットちゃんを導いたのは、薄っぺらな教育論
ではなく、心から子供を信じ、寄り添おうとする、
ひとりの人間の声だったのではないだろうか。

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田中真輝 16年11月20日放送

161120-08

木をかこう

今日は、世界子どもの日。

多彩な顔を持つイタリア人デザイナー、ブルーノ・ムナーリ。
彼の著作には「木をかこう」というかわいい絵本がある。

そこには、「木」の本質的な構造をわかりやすく伝えながら、
そこからありとあらゆる形に広がっていく木の姿が描かれ、
創造性の広さに気づかせてくれる。

子供はみんなアーティストである。
しかし、大切なのは、ただ紙とペンだけを手渡すだけではなく、
同時に、モノの本質についての学びも手渡すこと。
彼の子供と向き合う姿勢に、学ぶべきことは多い。

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田中真輝 16年9月11日放送

160911-04
Joao Carlos Medau
悼む人

今日、9月11日は、
アメリカ同時多発テロ事件が
発生した日。

この事件をきっかけにして紡がれた物語がある。
作家、天童荒太による「悼む人」。

911以降、世界中に広がる怒りの連鎖への
無力感の中で生まれたのが、
死者を悼んで旅する男の物語だった。

「なぜ、私たちは、すべての死者を平等に
追悼することができないのか」

その問いかけを胸に、天童は実際に、
各地で亡くなった人を悼む旅に出る。
そして、実に7年という歳月の果てに、
天童は「悼む人」を上梓する。
そこに描かれているのは、怒りに包まれる
世界への、天童からの静かだが、
力強いメッセージだ。

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田中真輝 16年9月11日放送

160911-06
InSapphoWeTrust
宛先のない手紙

今日、9月11日は、
アメリカ同時多発テロ事件が発生した日。

マンハッタン島の
南に位置するスタテンアイランドに、
事件で命を落とした島の住人、
275名の犠牲者を
追悼するモニュメントがあることをご存知だろうか。

彼らの多くは救助に向かった消防士たちだった。
設計したのは日本人建築家、曽野雅之氏。
ワールドトレードセンターに向かって
翼を広げるように立つ、そのモニュメントの名前は
「ポストカード」。

自らの危険を顧みず、崩落するビルへと
赴いた人々に想いを届けたいという願いが、
そこに込められている。

それは同時に、
世界中に向かって命の尊さと
戦争の虚しさを伝える、
宛先のない手紙に他ならない。

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田中真輝 16年9月11日放送

160911-07
Aude
タイムスリップエレベーター

今日、9月11日は、
アメリカ同時多発テロ事件が発生した日。

いま、その跡地には、デイビッド・チャイルズが設計した
ワンワールドトレードセンターが立っている。
彼は、この超高層ビルのエレベーターに、息を呑むような
仕掛けを施した。

エレベーターが上昇し始めた時、
窓の外に広がるのは1500年代、
マンハッタン島に入植が始まったころの光景。
そして、その風景はエレベーターが上昇していくにつれ、
高速で現代に近づいていく。
102階につくまでの47秒間でニューヨークが
発展していく歴史を目撃することができるのだ。

到着する寸前、一瞬だけ、
かつてのワールドトレードセンターが
映し出され、消える。

そして、エレベーターを降りたとき、
目の前に広がるのはいま現在のニューヨーク。
そこで、あなたは何を思うだろうか。

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田中真輝 16年9月11日放送

160911-08

神の視点

今日、9月11日は、
アメリカ同時多発テロ事件が
発生した日。

この事件を、神の視点で目撃した人物がいる。
宇宙飛行士、フランク・L・カルバートソン。
彼はその日、国際宇宙ステーションに滞在していた
唯一のアメリカ人だった。

その時撮られた写真には
ワールドトレードセンターから
東へと長くたなびく煙が写っている。
彼は上空からニューヨークのただならぬ様子を目撃し、
地上と交信することで、事件を知ったという。

宇宙から眺める地球に、国境はない。
暗黒の宇宙に浮かぶ、たったひとつの青い星。
なすすべもなく見下ろすその光景に
彼は何を思っただろう。
そして、神は何を思っただろうか。

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田中真輝 16年7月10日放送

160710-01

義家の勇気

今日は、納豆の日。

納豆の起源には諸説あるが、有名なものに
源義家にまつわる物語がある。

義家が奥州平定のために北上した際、
馬の食料であった、ワラの俵に詰めた煮豆が
発酵し、糸を引くようになってしまった。

兵たちが捨てていた煮豆を、
まあ待て、と義家が食したところ、
十分食べられる食料であったため、
兵糧として採用した、というのが
そのストーリー。

糸を引く煮豆を
まず食した義家の勇気もさることながら、
それを食べさせられて戦った兵たちの心情は
いかばかりだっただろう。

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