旅立ちに贈る言葉 おらおらでひとりいぐも
夫の定年を目前に、子どもも巣立っていき、
これからふたりでどんな暮らしをしていこうか?
そう考え始めた矢先に、夫に先立たれてしまったとしたら?
そんな、経験をした作家がいる。
若竹千佐子さんだ。
専業主婦をしていた55歳の時に、
夫が突然、脳梗塞で亡くなってしまう。
「図書館に行ってくるよ」そう家を出て行ったきりだった。
お互い本が好きで、気の合う夫婦だった。
悲しみから自宅に引きこもっていたが
勇気を出して小説教室に通い始めた。
小説家はずっと憧れていた職業だった。
夫との死別や、出身地である岩手の方言も交えて、
やっと書き上げた初めての小説が、2018年、芥川賞を受賞した。
63歳になっていた。
その小説のタイトルは、「おらおらでひとりいぐも」。
標準語にするなら、「私は私で、ひとり行くわ。」
人生100年時代を、
楽観もせず、悲観もせず、書くことと共に生きていく。
若竹さんの老境への決意は、
軽やかに、でも力強く、多くの人の背中を押してくれる。