あの人の食 森鴎外の秘密
家庭の中だけの、ちょっとマニアックな食の嗜好、
ひとつやふたつ、ひとにはあるものだ。
硬派な文豪、森鴎外の場合は・・・
ご飯に饅頭を割って載せ、煎茶をかける、饅頭茶漬け。
饅頭茶漬けは門外不出の家庭の秘密だったけれど
鴎外が死んだ後、
娘が書いたエッセイで世に知れわたってしまった。
お汁粉のようでおいしい、と娘は書いているが
天国の鴎外先生はどんな顔をしているだろう。
あの人の食 父と娘の台所
幸田文(あや)は自分を「台所育ち」だと言った。
幼いころに母をなくし、
父、幸田露伴が家事全般を躾けた。
その台所仕事の手始めは、
文が7歳の頃から毎日の献立を記録する「だいどころ帖」
文が「とうふのおみよつけ」と、たどたどしく書けば、
露伴は、「味噌汁 つかみどうふ もみのり散らして」と
一言一句、きびしく直す。
露伴は文に言った。
この帳面から音が聞こえてくるようにならなくちゃね
女学校に入って台所をあずかるようになった文は、
献立に迷うと、かつてつけていた「だいどころ帖」を何度も思い返した。
父の死後、文は食を題材にした小説やエッセイを数多く残したが
そのひとつにこんな短編がある。「台所のおと」