薄組・熊埜御堂由香

熊埜御堂由香 16年2月21日放送

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ジョニヲ
お酒のはなし 川上弘美と居酒屋

芥川賞作家、川上弘美さん。
ベストセラーになった
「センセイの鞄」などお酒を飲む場面が
作品にたびたび登場する。

お酒について彼女が書いたエッセイにこんな書き出しがある。

 今までで一番多く足を踏み入れた店は
 本屋、次がスーパー、三番めは居酒屋だと思う。

そして、つぎの行ではそんな自分の人生を
 なんだか彩りにかける人生である、と語る。

けれど、川上さんが描くお酒とひとは、
わかる、わかると切なくて、何度読んでも引き込まれる。

それはまるで、
居酒屋で居合わせた知らないひとと思いがけず
深い話をしてしまった時みたいに。
日常のひとこまが
ほんのり色づくそんな感覚を呼び覚ましてくれる。

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熊埜御堂由香 16年2月21日放送

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VisualAge
お酒のはなし 談志師匠

2011年に亡くなってなお根強いファンの多い、
落語家、立川談志。

立川流を立ち上げて、弟子たちをふりまわす日々。
飲みにいくと、こんな調子で、くだを巻いた。
「芸人なら真っ当に働くな、泥棒しろ!でも俺の家はダメだぞ」
その発言は愛とユーモアに満ちていて
みんな談志師匠が大好きだった。

談志がお酒について
こんな名言を残している。

 酒が人間をダメにするんじゃない、
 酒とは、人間はもともとダメだってことを教えてくれるものなんだ。

もし彼がいまも生きていたらきっと弟子たちは
こう返すだろう。

談志師匠、
ダメだっていいじゃない、
まぁ一杯飲みましょうよ。

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熊埜御堂由香 16年1月24日放送

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abakane
北欧のはなし リサ・ラーソンの優しいライオン

スウェーデンを代表する陶芸家、リサ・ラーソン。
ストックホルム郊外の自然に囲まれた自宅兼アトリエで
84歳の今も創作を続けている。

リサは、アトリエに来たすべてのひとを
スウェーデンのひとに欠かせないというお茶の時間、
「フィーカ」でもてなす。
そこには家族がつくった手作りのお菓子が並ぶ。
画家の夫や、その子ども、さらに孫たちが
集い、暮らしと創作が混じり合って、
リサの暖かみのある陶芸作品が生まれていく。

だからだろうか、
リサの代表作として知られる、
ころんと丸い陶器のライオンは
とても穏やかで優しい目をしている。

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熊埜御堂由香 15年12月27日放送

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karinckarinc
掃除のはなし 親子関係の大掃除

断捨離の提唱者、やましたひでこさん。
彼女の母は典型的なモノを溜め込むひとだった。
それが嫌で、結婚後も実家に帰るたびに
捨てに捨てに捨てていた。

そうするうちに母との関係はどんどん悪くなる。
なぜ母のために片付けているのに感謝されないの?
そう思ったとき
無意識のうちに片付けを通して
母に報復していたと気づいた。
生き方が違うんだなと思えるようになってから
親子関係も修復していったという。

母の前では、断捨離を捨てること。
それは、娘が母から完全に自立できた
親子関係の大掃除だったのかもしれない。

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熊埜御堂由香 15年12月27日放送

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掃除のはなし 川上弘美の幸田文ごっこ

芥川賞作家の川上弘美さん。
彼女のエッセイでは、たびたび、主婦としての家事のあれこれが
ちょっととぼけた味で描かれる。

震災のとき、節電のために掃除機を使うのをやめて
ほうきと雑巾を使って掃除をしていた時のこと。
文豪、幸田露伴に家事を厳しくしつけられた
娘の幸田文になりきって、掃除をしてみようと思いついた。
幸田文ごっこと名付けてルールも設定した。
雑巾を絞る時、きっちり絞りきれているか?
隅から隅まで拭き残しはないか?
ほうきは正しく使えているか?
こんな具合に自分を厳しく叱りながら掃除をする。

家事の中で一番掃除が嫌いという川上さん。
ちょっとした現実逃避で、日常の掃除もなんとかやりきれる。
主婦の生活の知恵は、時に涙ぐましい。

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熊埜御堂由香 15年11月8日放送

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Christopher.Michel
夫婦のはなし 父母より夫婦

父親や母親との関わりから患者の抱える問題を浮き彫りにし
解決に導いてきた、精神科医の岡田尊司さん。
その経験を生かし、ベストセラー「母という病」など著作でも
多くのひとを救ってきた。

そんな彼が書いた恋愛本
「なぜいつも似たようなひとを好きになるのか」
の冒頭にこんな言葉がある。

 母は選べなくても、父は選べなくても、
 パートナーは選べるんです。

胸に手をあてて考えてみると
夫に自分の父親の姿を探したり、夫婦関係が
こども時代にやり残したことの埋め合わせだったり・・・
そういう話はめずらしくない。

著書の中でも、こども時代の満たされなかった思いを
夫婦関係で乗り越えていく患者の事例が多く紹介されている。
他人なのに、自分をうみだした父親や母親以上の存在になれる。
夫婦って、深い。

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熊埜御堂由香 15年10月18日放送

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dbbent
日本語のはなし  名文を書かない文章講座

芥川賞作家、村田喜代子さん。
福岡県で、主婦をしながら小説を書き続け、
地元のカルチャーセンターでは、文章の書き方を教えてきた。
生徒は、はがき一枚にも苦労するという、
主婦だったり、リタイア後の夫婦だったり、まさに市井のひとびと。

そんなひとへ向かって村田さんはこう教える。

 エッセイや手紙を書くときに、名文に憧れを抱く必要はない。
 名刀を台所に持ち込んで大根を切る者はいない。
 大根を切るときには、使い慣れた、よく研いだ包丁を使うもの。
 そんな風に、心のこもった文章は普通の文体で書けばいいのだ。

村田さんの講座のタイトルは、
「名文を書かない文章講座」。

毎回、講座を終えるころには、
プロの村田さんが思わず、ほろりと心動かされる
エッセイをみんな書くようになるそうだ。

「ありがとう」そんな飾り気のない一言に心が
温まるように。きっとそこには、とびきりの、
普通のひとの普通の言葉がならんでいる。

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熊埜御堂由香 15年10月18日放送

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日本語のはなし せつない気持ち

翻訳家の柴田元幸さんと、
日本在住の劇作家、ロジャー・パルバースさんが
「せつない」という日本語をテーマに対談したことがある。

「せつない」にぴったりあてまはる
英語は存在しないとよく言われる。
その対談では、
Heartbreaking,
sentimental
などロジャーさんがせつないに近い英語表現を
いくつかあげて柴田さんと「せつない」気持ちを考えた。

日本人には、近松門左衛門から小津安二郎まで
「どうあがいても幸せになれない」という前提から出発した、
思い通りにならない人生を受け容れる姿勢がある。
そこに美しさや潔さを見いだす、独特の感性から
「せつない」という気持ちは、生まれているのでは
とふたりは結論づけた。

そんな結論にちょっと胸がうずいたら、
あなたも「せつない」気持ち、上級者かもしれない。

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熊埜御堂由香 15年9月27日放送

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onigiri-kun
お茶のはなし ひとりの時間

カフェですごす至福の時間といえば、
誰かと笑い合いおしゃべりをする楽しさもあるが、
ひとりで外の景色を眺めながらぼんやりするという穏やかさもある。

そんなひとりの時間が似合うカフェが石川県加賀市にある。
物理学者、中谷宇吉郎の功績をつたえる
雪の科学館に併設するカフェ「冬の華」だ。

中谷宇吉郎は、人口の雪をつくることに世界ではじめて成功するなど、
雪の結晶を研究した第一人者として知られている。
映画「霜の華」を1948年に発表し、
映画プロダクションの設立にも尽力した。
科学者として、芸術家として、
雪を時に冷静に、時に優しい視点で見つめ続けた。

彼が生まれた石川県加賀市の小さな温泉街、
片山津温泉にあるカフェでは、
冷たい飲み物が雪の結晶を思わせる
六角形のグラスで運ばれてくる。
ガラス張りの大きな窓の先には白山連邦が横たわり、
その景色を眺めているだけで、心が満たされていく。

雪は天から送られた手紙である。
宇吉郎の残した言葉そのままに、
まるで、しんしんと降る雪に耳を澄ましているような
ゆったりした時間が、カフェ「冬の華」には流れている。

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熊埜御堂由香 15年8月30日放送

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kouyuzu
涼菓の話 冬のかき氷

鵠沼海岸の住宅街に冬でも行列ができるかき氷店がある。
年中かき氷が食べられる専門店の先駆けとも言われる、埜庵(のあん)だ。
店主の石附浩太郎さんは、勤めていた音響機器メーカーをやめて
38歳のときにかき氷店をひらいた。
最初はランチに食事をだしていたがあるときに、決心する。
「かき氷1本でやっていく」

夏には行列ができても冬は赤字経営。
厳しい季節は、常連客が支えた。
夏は混むからねぇといって、ダウンを着てかき氷をほおばる。
そんなお客さんに支えられて
気づけば、冬の営業もうまくいくようになっていた。

鵠沼でお店をはじめて10年。
石附さんは言う、
もしはじめから一年中かき氷が食べられる店があったなら
僕の店は、この世に存在していなかったと思うんです。

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