ゆずか
誕生にまつわる話 大人の誕生
何歳の誕生日をすぎたあたりから、自分は大人になったんだろう。
もう子どもじゃない。もう大人なんだ。
そうはっきりと自覚した「あのとき」は、いつなんだろう。
詩人の長田弘は『深呼吸の必要』という詩集の中で、
その瞬間を、鮮やかに切り取ってみせる。
それはたとえば、自分についての全部のことを、
自分で決めなくてはならなくなったとき。
それはたとえば、歩くことの楽しさを無くしてしまったとき。
それはたとえば、ある日ふと、誰からも、
「遠くへ行ってはいけないよ」と言われなくなったとき。
それはたとえば、これ以上自分が大きくなれないんだと知ったとき。
それはたとえば、自分の人生で、
「こころが痛い」としか言えない痛みを、はじめて知ったとき。
九章からなる散文詩「あのときかもしれない」が見せてくれるのは
とりとめもないこととして片付けられるような、
でも、誰しもが通っている、火花のような瞬間の再体験。
子どもを大人にするのは、大人ではない。
子どもの中から、大人が生まれる。