薄組・小野麻利江

小野麻利江 13年4月21日放送


tomato umlaut
出会いのはなし ソニア・パークとお買い物

どうして人間って
買い物するのだろう?
スタイリストのソニア・パークは、
そう考えたことがあるそうだ。

少し考えて、彼女が出した答えはこうだ。

 そこにものがあるから。
 そして、それを買うことができるから。

みずからのショッピングフリークぶりを
「一向に治らない買い物癖」と称する
彼女ならではの答えである。

人とモノとの出会いの連続、ショッピング。
あなたはこの春、どんなものと出会いましたか?

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小野麻利江 13年3月10日放送



出発のはなし3 武田百合子の日記

まだ知らない場所へと旅立つ瞬間は
一抹の不安も入り混じり。
心からワクワクしているのか、嬉しいのか、
実はよく分からない。
冒険の最初の一歩が達成されたあと
徐々にうれしく感じるというのが
本当に正直な、心のありように思える。

昭和44年。随筆家の武田百合子は、
夫・武田泰淳のロシア旅行に同行する。
「連れていってやるんだからな。
 日記をつけるのだぞ」
夫にそう言われて
走り書きでつけ続けた日記は
『犬が星見た ロシア旅行』という一冊になり
出発の瞬間のあの独特の感情を
今も多くの読者に、呼び起させる。

 百合子。面白いか? 嬉しいか?

横浜大桟橋で見送る知人たちの表情が
するすると離れて見えなくなったのち。
甲板から船の中に戻り、
ビールを飲みながら尋ねる夫に
百合子はこう答える。

 面白くも嬉しくもまだない。
 だんだん嬉しくなると思う。

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小野麻利江 13年2月3日放送



ユーモアの話 星野源と「ようこちゃん」

俳優・歌手など、マルチに活躍するアーティスト、星野源。
彼には、自分のことを「ようこちゃん」と
名前で呼ばせる母親がいる。

星野が子どもの時。
「源、助けて!」という声を聴き、星野が風呂場に駆けつけると、
「排水溝に、吸い込まれるー!」
湯船の中で「ようこちゃん」が、迫真の演技。
パニックになった星野が、泣きじゃくりながら助けようとすると、
「どうも、ありがとうございます」と、
「ようこちゃん」は息子に敬語で、お礼を言った。

なぜあんなことをして、自分で遊んでいたのか?
星野が尋ねると、「ようこちゃん」はこう答えた。

 だって、学校行って帰ってくるたびに
 源の顔が暗くなっていくんだもん。
 それを無理に頑張れって言うのも嫌だし、
 だからせめて家の中だけは
 楽しくいてもらおうと思って、いろいろしたの。

それを聞いて、星野は思う。

 私は、遊ばれていたのではなく、遊んでもらっていたのだ。

ユーモアも、感謝も。
毎日のできごとを、ひとつ大きな視点からとらえなおす、
いとおしい、方法。

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小野麻利江 13年1月20日放送



夢のはなし 夢を買った北条政子

「尼将軍」として鎌倉幕府の実権をにぎった女性、北条政子。
そんな政子が夫・源頼朝と出会えたのは
夢を買ったから、という話がある。

ある日政子の妹が、太陽と月を掌につかむ奇妙な夢を見た。
それを聞いた政子は、

 それは禍をもたらす夢である。私に売ってはどうか。

こう申し出たという。
当時、「不吉な夢を売ると禍を転嫁できる」という考え方があり、
妹は小袖の着物と引き換えに、その夢を売った。

しかし政子は、それが本当は、非常によい夢だと知っていた。

北条政子は、頼朝の妻となる前から、北条政子であった。

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小野麻利江 12年12月23日放送


KYR
愛のはなし 永六輔

「好きな人に告白する言葉を教えて」
小学6年生の女の子が、
あるラジオ番組に、そんなほほえましい質問を寄せた。
それに回答したのが、作詞家の永六輔。

言葉は一番大切です。
でも、好きな人に
「あ、この子好きだな」とか
「いい人だな」と思われるには、
「おなべをいっしょに食べて同じものをおいしいと思う」
「夕やけを見て、両方が美しいなと思う」
というような
同じ感動を同じ時点で受け止めるのが、一番効果があります。

そうすると、使いあっている同じ言葉に
ドキンとすることがあって、
それが愛なんです。

6年生の女の子に、これがどう響いたかはわからない。
しかし、このエピソードを紹介したインターネットの投稿は
またたく間に広まり、
多くの大人たちの心を震わせた。

いっしょに過ごす。いっしょに感動する。
「上を向いて歩こう」を生んだ作詞家が、
またひとつ、シンプルだけど忘れがちなことを
教えてくれた。

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小野麻利江 12年11月04日放送


yoppy
空のはなし メキシコの青い空

10月26日。
サッカーワールドカップメキシコ大会
アジア最終予選 「日本対韓国」の初戦。

このタイトルマッチに日本が勝てば、
長年の悲願、ワールドカップ出場が決まる。
その期待感を、
アナウンサーの山本浩はこう実況した。

東京千駄ヶ谷の国立競技場の曇り空の向こうに、
メキシコの青い空が近づいてきているような気がします。

夢は惜しくも潰えたが、
この一戦が、日本サッカー界の発展に
大きな影響を与えた。

ヒトは空に希望を見る。
その希望が、エネルギーになる。

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小野麻利江 12年10月7日放送



色のはなし ターナーのパレット

イギリス・ロマン主義の画家、
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー。
西洋絵画史初の本格的な風景画家の1人。

彼が描く水彩画の特徴は
明るい色彩をちりばめた、
空気感のある風景表現。

そのため彼のパレットは、
透明度の高い色であふれていた。

好んで使った色は、黄色。
現存する彼の絵具箱の大半が、
黄色系統の色で占められている。

それとは逆に、非常に嫌っていたのが、緑色。
緑を極力使わないよう、苦心したという。

 木を描かずに済めばありがたい

知人の1人にそう漏らしたという逸話さえ、残っている。

緑が嫌い、木が嫌い。
それでもターナーは風景画家でありつづけた。

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小野麻利江 12年9月2日放送



果物のはなし 大楠道代の水密桃

実り、熟れて、やがて朽ちる。
果実の中には、「死」のイメージが
少なからず見え隠れする。

映画監督・鈴木清順の代表作
『ツィゴイネルワイゼン』は、
果実のそんな側面を、
描写の中に、みごとに取り入れている。

主演女優・大楠道代が、
劇中でむさぼるように桃に齧りつき、

水密桃は腐りかけているときがおいしいの

こう言い放つさまは狂気と幻想をはらみ、
今でも多くの映画ファンの心を、捕えてやまない。

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小野麻利江 12年9月2日放送



果物のはなし 酒井順子のマンゴープリン

日本のサクランボだのみかんだのといった
生娘のような果物は、
束になってかかっても、
マンゴー姐さんのお色気には
太刀打ちできません、という感じ。

『負け犬の遠吠え』をはじめ、
切れ味鋭く軽妙な語り口に定評のある
エッセイスト・酒井順子。
彼女は人間のみならず、果物にも手厳しく、
マンゴーそのものに対して以上に、
マンゴープリンに手厳しい。

本当に美味しいマンゴープリンには、
生のマンゴーを食べる時の喜びを
さらに増幅させたような感動があると、彼女は言う。
そんなマンゴープリンの存在の希少さを
酒井はまた、独特の表現で言い回す。

美味しいマンゴープリンが少ないのは、
本当に美しい大人の女性が少ないのと、同じこと。

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小野麻利江 12年8月19日放送


銀猫 夏生
部活の話 青木秀憲の哲学

毎年多くの東大合格者を出す、開成高校。
その野球部は、週一回、2時間しか
全体練習ができない。

しかし夏の甲子園・東東京大会で
「ベスト16」という成果を残しているのは、
負けず嫌いの監督・青木秀憲の指導が大きい。

 野球は大いなるムダ。
 ムダだからこそ思いっきり、
 勝ち負けにこだわってやろう。


quack.a.duck
部活の話 丸谷昭夫の指導法

大阪府立淀川工科高校には、音楽の授業がない。
しかし、そんな高校の吹奏楽部が、
吹奏楽の甲子園の常連・「淀工」として、
全国に名をはせている。

その立役者が、顧問の丸谷昭夫。
音大への進学をあきらめ、
高校の先生になると同時に部の顧問につき、以来48年。
彼の熱血指導を受けた教え子は、およそ1600人。
「淀工吹奏楽部」の活躍は、
関西の吹奏楽の水準を押し上げた。

「どんな指導法をお持ちなんですか?」
人にそう尋ねられるとき、丸谷はこう言う。

 子どもたちの主体性、自主性を引き出すだけ。

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