指揮者の哲学 アルトゥーロ・トスカニーニ
イタリアの指揮者、アルトゥーロ・トスカニーニ。
徹底的な楽譜至上主義で、正確なテンポを刻んだ。
だがそれは、ただ忠実に演奏することではない。
オーケストラそのものが生きる楽譜となり、
音と同化することを求めた。
リハーサルでは指揮棒を折り、スコアを破り、
あらゆるものを床に投げつける。
そんな魂のやりとりで生まれた曲が、人を感動させない理由がない。
だが、本人は淡々とこんなことを言っている。
私は偉大でもなんでもない。
ただ他人の作品を指揮していただけだ。
トスカニーニは、極度の近眼のため、楽譜を読まずに暗記していた。
合奏曲は250曲、オペラは100曲以上記憶していたという。
だが1954年に行われた演奏会の途中、
記憶障害で指揮を止めてしまう。
彼がタクトを置いたのは、その直後のことだった。