Alpsdake
井上井月と伊那谷
時は幕末。
信州の山深い伊那谷にぶらりとやってきた男がいた。
家を持たず、妻も子もない。
知り合った人の家に泊めてもらうか
お寺の境内で夜露をしのぎ、
30年という歳月を過ごした。
漂泊の俳人、井上井月は
行く先々で句を読み、その対価として
食べ物や酒をわけてもらい暮らした。
この地に辿り着くまで、彼が何をしていたのか
はっきりわかっていない。
ただ残されているのは、
あちこちの家の蔵に眠っていた1800以上の俳句だった。
誰やらが 身を泣きしとや 秋の月
井月の秋は、静かに暮れていく。