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佐藤延夫 13年12月7日放送


Cross Duck
さようなら 山崎豊子

私の作品は、取材が命。
そう語ったのは、今年の9月に亡くなった、
小説家の山崎豊子さんだ。

取材中、相手の話に引き込まれて一緒に涙を流す。
反対に、失礼な態度をとられたときには、
捨て台詞を吐いて席を立ったそうだ。

「万年筆の先から血が滴る思いで書いている」

作者の魂が込められた人間ドラマは、
何年経っても色あせることなく、
読む人を山崎ワールドへ引きずり込んでいく。

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佐藤延夫 13年12月7日放送


nicolasnova
さようなら 山内溥

任天堂の元社長、山内溥(やまうちひろし)さんが亡くなったのは、
今年の9月のことだ。
花札やトランプを作っていた小さな会社は、
ファミリーコンピュータという空前の大ヒットで、
一躍、世界の一流企業にのし上がった。

しかし、その前に紆余曲折があったことはあまり知られていない。
タクシー会社、食品会社、事務機器、
育児関連用具、ラブホテルの経営まで手を出したが、
ことごとく失敗している。

「世間はよく成功者を手放しで尊敬してしまうが、
 成功者の言葉ならなんでもかんでも金科玉条のように
 あがめるのはおかしい」

成功と失敗。両方を知る男の言葉は、やけに説得力がある。

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佐藤延夫 13年11月2日放送



節目のとき 前田智徳

広島カープの背番号1。
前田智徳が、今シーズンでユニフォームを脱いだ。

その昔、イチローは言った。

「本当の天才は、前田さんです」

天才という安易な言葉に異論を唱える者もいる。
そのくらいバットを振り、練習に打ち込んだ。
しかし前田の敵は、いつも怪我だった。

引退セレモニーのとき、彼はマイクの前で
大きく息を吐いた。

これで、やっと怪我から解放される。
そんな吐息のようにも見えた。

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佐藤延夫 13年11月2日放送


EO Kenny
節目のとき 桧山進次郎

代打の神様、という言葉がある。

ひとりの神様が引退すると、
その役割は、次の選手に託される。
まるで名選手の持ち回りのように。

阪神タイガースの背番号24。
桧山進次郎は、代打の神様という役回りを終え
今シーズンでバットを置いた。
引退セレモニーでは、こんな言葉を残した。

「本当に僕は幸せものでした」

代打の神様は、ファンも自分も、幸せにできる。

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佐藤延夫 13年11月2日放送



節目のとき 山﨑武司

一度は引退を考えた男が、
見事に復活し、そして羽を休めるときを迎えた。

中日ドラゴンズの背番号7。
山﨑武司は、豪快なバッティングと
屈託のない笑顔が誰よりも似合う選手だった。

これは、引退セレモニーのときの言葉。

「今日試合に出て、諦めがつきました。
 ユニフォームを脱ぐ決心が今さっき、つきました」

最後の最後まで、
選手人生に未練を残す正直さが、
彼という人、そのものなんだろう。

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佐藤延夫 13年11月2日放送



節目のとき 宮本慎也

あるベテラン選手が引退会見で言った言葉に
多くのファンが驚かされた。

「楽しんでプレーしたことは、一度もない」

東京ヤクルトスワローズの背番号6。
宮本慎也は、今シーズンで選手生活を終えた。
不思議な縁に導かれた19年だった。

人生観を変えた、野村監督との出会い。
そして、現在の小川監督は、
自分が入団するとき、スカウトをしていた人物だ。

神宮球場での最終戦、宮本の最終打席。
あわやホームランという打球が舞い上がった。
スタンドにあと一歩届かず捕球されると、
彼はようやく、晴れやかな、楽しそうな笑顔を見せた。

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佐藤延夫 13年10月5日放送



あの人の息子 菱川師房

父親は、偉大な芸術家。
その背中を見続けていた息子が、
同じ道を目指す。

そんな光景は、江戸時代にも
もちろんあった。

浮世絵の祖、菱川師宣の息子、菱川師房。

小さいころから浮世絵を教わり、
作風は、師宣の技法を忠実に再現した。

しかし、父と同じような作品は残せても、
父を超えることにはならない。
やがて師房は、筆を捨て、染物屋に転職したという。

親の七光りとは言うけれど、その輝きを維持することは難しい。

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佐藤延夫 13年10月5日放送



あの人の娘 近藤たま

新選組局長、近藤勇は、子煩悩な父親だったそうだ。
一人娘の誕生日に、京都西陣織の帯を贈っている。

その娘の名前を近藤たま、という。

戊辰戦争で父親を失ったとき、たまは6歳。
やがて叔父の家に引き取られ、息子の許嫁となる。
そして長男を出産したあと、25歳の若さでこの世を去ってしまう。

このとき生まれた男の子も日露戦争で命を落とし
近藤勇の直系は途絶えることになる。

戦争はいつも、人の運命を残酷にねじ曲げていく。

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佐藤延夫 13年10月5日放送



あの人の息子 夏目純一

夏目漱石の息子、夏目純一は
小説家を目指さず、音楽の世界へ飛び込んだ。

なにしろ、父親の印税は山ほどある。
ヨーロッパでヴァイオリン学びながら、
休日は貴族と豪遊して過ごしたそうだ。

その後、ヴァイオリニストとして東京交響楽団に参加。
ドイツ語やイタリア語にも堪能で、
通訳としても活躍した。

お金持ちの道楽かと思いきや、
しっかりと自分の居場所を見つけている。

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佐藤延夫 13年10月5日放送



あの人の息子 トーマス・エジソン・アルヴァ・ジュニア

目の前に、絶対に越えられない壁があるとして。
その壁が自分の父親ならば、
息子はどう立ち向かえばいいのだろうか。

たとえばトーマス・エジソンの次男、アルヴァ・ジュニアの人生。

発明王の息子として
周りから甘い言葉を囁かれ、
科学会社を設立する。

詐欺まがいの手口で資金を集めていたところ、
エジソンに告発され、会社は倒産。
そのかわりに、週200万円相当の仕送りをもらう契約を結んだそうだ。

親の甘茶が毒となる。
そもそも息子に、壁なんて見えなかったのかもしれない。

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