‘佐藤理人’ タグのついている投稿

佐藤理人 15年3月22日放送

150322-05

創造のジンクス⑤「キルケゴールの砂糖」

哲学者キルケゴールの
コーヒーの飲み方は一風変わっていた。

まずカップに縁より高い砂糖の山を作る。
上からとびきり濃いコーヒーを注ぎ、
白いピラミッドをゆっくり溶かして一気に飲む。

大量のブドウ糖は新たなエネルギーとなり、
彼の脳みそを一日中活発に動かし続けた。

 絶望は死に至る病

と説いたキルケゴール。

心が疲れたとき甘いものが欲しくなるのは、
ちゃんと理由があるらしい。

topへ

佐藤理人 15年3月22日放送

150322-06
docmoreau
創造のジンクス⑥「アームストロングの民間療法」

トランペッター、ルイ・アームストロングにとって
人生は旅そのものだった。

 2万年くらい飛行機や列車に乗って来た気がする

そうボヤくほど毎晩どこかの町で演奏する日々。
健康を保つため、彼は民間療法にのめり込んだ。

喉を洗う効果があると信じて蜂蜜を飲み、
唇に手作りの怪しげな軟膏を塗り付けた。

医者たちの呆れ顔をよそに彼は常に健康で、
どんなにハードなツアーでも、
毎晩ハイレベルな演奏をこなし続けた。

 人前で披露できなきゃ
 音楽なんてなんの価値もないからね

彼にとってそれは習慣を超えた、
最高の音楽を届けるための儀式だった。

topへ

佐藤理人 15年3月22日放送

150322-07

創造のジンクス⑦「ベケットの暗闇」

 これからずっと
 暗くふさぎこむことになるだろう

ある晩、荒れ狂う嵐を前に、
サミュエル・ベケットは悟った。

自分の暗さこそ長所だと、
やっと認めることができたのだ。
翌日から彼は部屋に引きこもり、
自らの心の深淵を探った。

そうして生まれたのが、
傑作「ゴドーを待ちながら」。

どんな暗闇にも、光明は隠れている。

topへ

佐藤理人 15年3月22日放送

150322-08

創造のジンクス⑧「江口寿史のスケッチ」

カワイイ女の子を描かせたら
右に出る者のない漫画家、江口寿史。

その寡作さ故に「天才」と呼ばれる彼にも、
若い頃人知れず続けた練習がある。それが、

 5分スケッチ

雑誌で気に入った写真を見つけたら、
すかさずスケッチする。条件は、

 下描きなし、5分以内、できればペンで

失敗していい。時間をかけなくていい。
練習だからこそ楽しまなくちゃいけない。

大切なのは写真をそのまま描くのではなく、
水の中に入ったらモノはこう歪むんだとか、
水にぬれた服はこう張り付くんだなどの発見を
自分なりに描くこと。

 画力とは記憶力である

彼が描く女の子は世界中のどこにもいない。
それは彼の頭の中にだけ存在する。

topへ

佐藤理人 15年1月10日放送

150110-01
rahen z
一年の抱負①「村上春樹の早起き」

傑作は朝、生まれる。

作家村上春樹の朝は早い。4時に起き、午前中に執筆。
午後はランニングで体を鍛え、9時には就寝。
彼はこの生活をもう25年も続けている。

 小説を書くには精神力だけでなく体力がいる

デビュー直後、座りっぱなしの毎日で太った彼は
生活を根本的に変えることを決意。
田舎に引っ越し、タバコをやめ、
野菜と魚中心の食生活に変えた。

こんな暮らしにも一つ欠点があると言う。
それは人づきあいが悪くなること。でも彼は言う。

 読者とのつきあいの方がずっと大切だ

さて、新年。
今年の抱負は「早起き」なんていかがでしょう。
思わぬ傑作が生まれてくるかもしれません。

topへ

佐藤理人 15年1月10日放送

150110-02

一年の抱負②「カントの画一性」

 人間の性格は40歳で完成する

ドイツの哲学者カントは言った。

自分にとって何がいちばん自然な生き方か、
人は経験からようやく選べると言うのだ。

彼自身が40歳で選んだのは、
機械のような規則正しい生活だった。

故郷の町からほとんど出ず、
ほんの数時間で行ける海にさえ行かない。

 彼が散歩に出るとちょうど3時半だとわかる

そう噂されるほど判で押したような暮らしを、
彼はそれから40年も続けた。

実はそれは、生まれつき病弱だった彼の、
一日でも長く生きるための必死の工夫だった。

さて、新年。たとえ何歳であっても、
規則正しい生活を始めるのに
遅すぎることはなさそうです。

topへ

佐藤理人 15年1月10日放送

150110-03

一年の抱負③「ユングのシンプル」

 もし16世紀の人がわが家を訪れても、
 目新しいものはランプとマッチくらいだ

20世紀スイスが生んだ偉大な精神医学者ユング。

自然の暮らしの中でこそ、
人は本来の自分に戻ることができる。

そう考えた彼は人里離れた小さな村に
電気も電話も水道もない石造りの塔を建て、
生涯をそこで過ごした。

 井戸から水を汲む。薪を割り、食事を作る。
 こういった単純な行為が、人間を単純にする。
 だが単純であることがいかに難しいか!

それは人間の「無意識」を研究し続けた、
ユングらしいシンプルな生き方だった。

さて、新年。たまにはスマホから顔を上げて、
自分とゆっくり過ごしてみませんか。

topへ

佐藤理人 15年1月10日放送

150110-04
SiefkinDR
一年の抱負④「チャイコフスキーの散歩」

 人間には1日2時間の散歩が必要だ

ロシアの作曲家チャイコフスキーは頑にそう信じていた。

もし5分でも早く帰ってきたら、病気になるか、
とてつもない不幸に見舞われるとパニックになった。

ある意味、その妄信は正しかったのかもしれない。
彼の曲はほぼ全て、散歩中に生み出されたものだった。

 曲作りにおいていちばん大切なことは、種、
 つまり曲の中心となるアイデアが生まれること。
 そして種を育むのにいい土壌があることだ。

彼は心身を常にヘルシーな状態に保つことで、
曲の種が伸び伸びと育ち、花開く環境を整えた。

さて、新年。今年こそ運動不足解消!
と誓った人も多いでしょう。

でも人間にとって本当にダイエットが必要なのは、
体より頭の中なのかもしれません。

topへ

佐藤理人 14年12月27日放送

141227-01

カルティエ・デザイン①「トリニティとコクトー」

 この世にまだない指輪が欲しい

1923年のある日、詩人ジャン・コクトーが
フランスの高級ブランド、カルティエを訪れた。

小説「肉体の悪魔」の作者にして最愛の恋人、
レイモン・ラディゲへの贈り物。

そうして生まれたのが、
クリスマスプレゼントとして
日本でも人気の高い

 トリニティリング

トリニティとは「三位一体」のこと。
絡み合う白、黄色、ピンクのゴールドは、
「友情」「忠誠」「愛」を意味する。

しかしラディゲは病のため、
指輪の完成を待たずに
二十歳の若さでこの世を去る。

哀しんだコクトーは
ラディゲと自分の2つのトリニティリングを
終生同じ指にはめ続けたという。

topへ

佐藤理人 14年12月27日放送

141227-03

カルティエ・デザイン②「サントスと飛行機」

 飛行中でも操縦桿から
 手を離さずに時間を見たい

1906年のある日、
ブラジルの飛行機王サントス・デュモンが
フランスの高級ブランド、カルティエを訪れた。

時計といえばまだ懐中時計が一般的な時代。
腕時計は小さな懐中時計に革ひもをつけただけの
女性のアクセサリーでしかなかった。

デザインも機能も妥協しない、
男性が堂々と使える腕時計を作りたい。
そうして生まれたのが世界初の紳士用腕時計、

 サントスウォッチ

現在、多くの高級時計で使われている
金属製の留め金具、通称「Dバックル」も、
カルティエの発明である。

今を告げる時計に、
カルティエは未来を見ていた。

topへ


login