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小林慎一 16年8月21日放送

160821-03
Clearly Ambiguous
貨幣篇

カール・ポランニーから端を発する経済人類学は
貨幣の成立にも独特の説をとっている。

原始的な社会では、
お互いに足りないものを補うために物々交換が行われ、
社会が発展するにつれて、持ち運びに便利な貨幣が発明された、
という立場をとらない。

ある共同体と共同体が交わった時、不安と緊張が生まれる。
そのよそ者への畏怖の念は、鬼や山姥などにシンボライズされ、
平和への意思表示として贈り物、つまり、お供えものが
境界線上に置かれる。

贈り物をされた方には、借りができ、その借りを返すために、
貨幣が登場した。

支払いとは、「祓いたまえ、清め給え」の祓いであり、
貨幣の幣の字は、お祓いを意味する。
英語のpayは「鎮める・なだめる」という意味を持つ
pacifyが語源である。

子安貝や金や銀が貨幣になったのは貴重だからではなく、

経済人類学は、
呪術的に魔を祓う力が強いものが選ばれたと説明する。

日本では金よりも銀が、重宝された。

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小林慎一 16年8月21日放送

160821-04

文字の成立篇

栗本慎一郎は、その著書で、
文字と法律が生まれた理由の
経済人類学的な説明をしている。

まず、文明が高度になると文字が発明されるという
考え方を否定する。

西アフリカの王国ダホメでは、
極めて精密な政治体制や経済運営を行っていた。

有名な奴隷貿易ではヨーロッパの列強諸国を翻弄し
経済の近代化という意味では
イギリスやフランスよりも上といっても過言ではなかったという。

しかし、ダホメには19世紀になっても、文字はなかった。

古代4大文明にはみな文字があった。
そして、その共通の特徴は、異なった文化を持つ部族を制圧し、
統一国家をつくったことにある。

異なる部族が混在するからこそ、
正しい、つまり、征服者に都合のいい歴史を書き残す必要があり、
ハムラビ法典のように決まりごとが書いてある法が必要になったのである。

日本で文字が生まれるのは6世紀半ばである。

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小林慎一 16年8月21日放送

160821-05

生物としての人篇

経済人類学者カール・ポランニーの弟である
マイケル・ポランニーは
感情、道徳、哲学も、広くは生物学の中で
語られなければならない、と述べている。

生物は機械そのものではないが、機械的な原則に基づいている。
そして、その機械的な原則は、より上位の原則により支配されている。

人にはアメーバやワニだった時代の法則が生きていて、
マンモスと戦ったころの記憶を持っている。

生物を司る物理的・化学的な一番下の層から、
人が人に進化するあらゆる生物的な層が積み上げられて
人ができている。

この考え方を、栗本慎一郎は、「層の理論」と呼んでいる。

ポランニーの友人だったアーサー・ケストラーは、
その著書「機械の中の幽霊」で

同じ部品、同じ工程で組み立てたれた機械であっても、
誤差の範囲を超えて、違う動作をすることを統計的に分析した。

ケストラーは、機械にも霊的なものが宿ると結論づけている。

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小林慎一 16年8月21日放送

160821-06

過剰と蕩尽篇

人は人になった時から
生存に必要以上のものを生み出し続けている。

そのような行動をとる動物は人だけである。
経済学は、生産の効率化と大規模化で説明しているが
そもそもなぜ必要以上なものを生み出すのか
という説明にはなっていない。

栗本慎一郎が専門にする経済人類学には
「過剰・蕩尽理論」という重要な説がある。
蕩尽とは、使い尽くすという意味である。

人は、ワザと過剰なものをつくりだし、それを、蕩尽する時に、快楽を感じる。
それは、積み上げた積み木を壊す時の、子供の喜びと同じ種類だと言う。

普通の日は、働き、過剰を溜め込み、
溜め込まれた物や人間のエネルギーを、
非日常の日に消費し、破壊する。

そのような祭りは、古代や未開社会だけでなく、
現代社会にも数多くある。

暑い夏。
それは、蕩尽の季節でもある。

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小林慎一 16年7月17日放送

160717-01
Bob Lord
暗号解読と数学篇

第二次世界大戦。
ドイツの暗号システム「エニグマ」は
1億5千万通りの百万倍の百万倍の百万倍
の設定が可能だった。

イギリスの暗号解読班は
古典学者と言語学者で占められていたが
数学の研究者が必要だと判断した。

コンピュータの原型である無限計算機の開発者
アラン・チューリングがイギリスの暗号解読班に参加した。

チューリングは、
エニグマの全設定をチェックする巨大な装置をつくった。
その装置は、回線がつねにカチカチと音を立てるため
爆弾と言われた。

戦況は一変した。

第二次世界大戦は物理学者の戦争と言われた。

しかし、
長い間、秘密のベールに隠されていた
チューリングのチームの存在が明らかになった今、
第二次世界大戦は数学者の戦争だったのだ。

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小林慎一 16年7月17日放送

160717-02

神とサイコロ篇

人類にとって、
確率とは、ギャンブラーの直感と経験のことだった。

17世紀に入り、
パスカルとフェルマーの共同作業によって
確率は厳密な数学規則に従うものになった。

しかし、それ以来、数学的に正しい数字と、
私たちが直感的に正しいと思える数字が違っていることが
少なからずある。

サッカー場に選手と審判が23人いるとする。
この23人のうち、誰か2人の誕生日が
同じになる確率はどれくらいだろうか。

10%だろうか。3%だろうか。
答えは、50%を超える。

誕生日が同じ人が一組生まれる確率は、
一組も生まれない確率よりも高いのだ。

その理由は、23人という数字よりも、
ペアをつくる組み合わせが重要だからだ。
ペアの組み合わせは、253通りになる。

このような確率の錯覚を利用したギャンブル生まれている。
あなたも、くれぐれもお気をつけを。

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小林慎一 16年7月17日放送

160717-03

微積分と大統領篇

フェルマーは確率論の生みの親になっただけでなく
微積分学の創設にも深く関わった。

微積分法によれば
ある量が別の量に対して変化する率
微分係数を求めることができる。

例えば、速度とは時間に対する距離の変化率のことで
加速度とは時間に対する速度の変化率のことである。

微積分学のおかげで惑星の軌道を計算し、
大砲の弾道を予測し
人類は月に行けるようになった。

微積分学は経済学にも大きな影響を与えた。
インフレーションとは物価の変化率のことである。
インフレーションは物価の二次導関数で表され
その増減は三次導関数によって計算される。

1972年、ニクソン大統領は
インフレーションの上昇率は減少しつつある、と演説した。
数学者のヒューゴ・ロッシは
現職の大統領が再選に向けて三次導関数を
利用したはじめてのケースであると述べている。

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小林慎一 16年7月17日放送

160717-04

セミと素数篇

周期ゼミというセミがいる。
どんな世代でも正確に17年または13年で大量発生する。
周期年数が素数であることから素数ゼミとも呼ばれている。

最近では、2004年にニューヨークで大量発生し
日本でもたびたび報道された。

素数年発生の意義を最初に指摘したのはロイドとダイバスだ。

セミの天敵である寄生虫が2年のライフサイクルを持つなら
セミは2で割り切れるライフサイクルは避けたいに違いない。
3年の場合は3で割り切れるライフサイクルを避けようとするだろう。

セミが寄生虫との同時発生を避ける最良の策は
長くて、しかも素数のライフサイクルを持つことだ。

2年のライフサイクルをもつ寄生虫と
ジュウナナネンゼミが顔を合わすのは34年ごとになる。

そんなセミに寄生虫が対抗するには1年サイクルか、
17年サイクルになるしかない。

1年サイクルだとすると、
最初の16年は宿主になるセミはいない。
17年サイクルだとすると、
寄生虫とセミは272年間同時発生しないことになる。

天敵のいなくなったジュウナナネンゼミは、
2021年にまた大量発生する。

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小林慎一 16年7月17日放送

160717-05

戦闘と数学篇

1944年。
フォン・ノイマンは「ゲームの理論と経済行動」
という共著を出版した。

ノイマンはこの本の中でゲーム理論という言葉を生み出し
人間がゲームをいかに遂行するかを数学的に記述した。

チェスやポーカーについて研究し、
経済の営みもモデル化しようとした。

アメリカのシンクタンクであるランド研究所は
ノイマンのアイデアが持つ
潜在的可能性に気づき
冷戦期の戦略開発のために彼を雇い入れた。

ゲーム理論は、
戦闘をチェスと見立てて戦略を練るのに
なくてはならない道具となった。

ゲーム理論によって進化した戦闘は
より効率よく人を殺せるようになったのだ。

ジョイスティックで操られた無人機が爆弾を落とす。

戦闘のゲーム化が、残虐性を覆い隠してはいないだろうか。

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小林慎一 16年7月17日放送

160717-06
faeriefly717
ゲームと数学篇

人がゲームの勝率を上げるための
数学的理論はフォン・ノイマンによって確立された。
そのゲーム理論は実際の戦闘にも応用されている。

例えば、ミスターブラック、ミスターグレイ、ミスターホワイトの
3人がピストルで決闘することになった。
決闘は一人が生き残るまで行われる。

ブラックは、3回に1回しかピストルを当てることができない。
グレイは、3回に2回。ホワイトは3回に3回当てることができる。

ピストルを打つ順番は、下手な順で、ブラックからである。
ブラックは最初に誰を狙えばいいだろうか。

百発百中のホワイトを狙うか、3回に2回のグレーを狙うか。
グレーを狙い成功すると、
ホワイトは百発百中の腕前でブラックを殺すだろう。
ホワイトを狙い成功するとグレーは3回に2回の確率なため
ブラックが生き残る可能性が高まる。

しかし、もっともいい方法は、空を打つことである。
次にグレーはより危険な敵であるホワイトを狙うだろう。
ホワイトがもし生き延びてもホワイトはグレーを狙うだろう。

ブラックにとっての最善の策は、
3人による決闘の一発目打つのではなく
2人による決闘の合図をすることなのだ。

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