‘新井奈生’ タグのついている投稿

新井奈生 15年6月13日放送

150613-01

「最高の詩人」

ボブ・ディランが
「現代アメリカ最高の詩人」と評した
ミュージシャンがいる。

その名は、スモーキー・ロビンソン。
彼のつくる音楽は
1960年代のソウル・ミュージックに知性を持ち込んだ。

“君から離れたい もうここにいたくない
どこかへ消えてしまいたい
でも今さらできない
君はぼくをつかんで離さない”

“君から離れたい”と突き放しておいて、
“君はぼくをつかんで離さない”と引き戻す、
この言葉のテクニック。

彼は情感豊かな詩人でありながら、
心の動きをコントロールする天才でもあった。

次々とヒットを飛ばし、
やがて、時代の寵児になっていった
スモーキー・ロビンソン。

ジョン・レノン。ジョージ・ハリソン。
ポール・ウェラー。
スモーキーの影響を受けたと公言する
ミュージシャンは数えきれない。

マイケル・ジャクソンも、そのひとりである。

topへ

新井奈生 15年6月13日放送

150613-02

「マイケルの衝撃」

スモーキー・ロビンソンの代表作に、
Who’s loving youという曲がある。
失恋した男が苦しみ、
彼女に戻ってきてくれと嘆くブルースだ。

“お前が俺のものだったときは
酷く扱ったよな 間違っていたよ
俺は頭を抱えてへたり込んでいるんだ
誰かがお前を愛してるかもしれないってね”

後にこの曲は、ジャクソン5時代の
マイケル・ジャクソンが歌い喝采を浴びる。

スモーキーはこう語っている。

「マイケルのテイクを耳にしたとき、
 すぐに彼の出生証明書を確認したよ。
 あんな小さな男の子が僕の人生を完璧に歌えるなんて、
とても信じられなかったんだ。」

このとき、マイケル・ジャクソンは10歳だった。

topへ

新井奈生 15年6月13日放送

150613-03

「本当の気持ち」

オリヴァー・ストーン監督の映画、「プラトーン」の中に、
ベトナム戦争に送り込まれた兵士が、
束の間のオフタイムを楽しむシーンがある。

そこでかかるBGMは、
スモーキー・ロビンソンの
“track of my tears”という曲だ。

リラックスした
心の内を表すような、優しい曲調。
しかし、歌詞ではこう歌っている。

“みんな僕のこと
いつもパーティーしてるみたいと言う
冗談ばかり言ってるから
大声で笑ったりはしゃいだりするけれど
心の中は落ち込んでいるんだ”

歌詞がわかると、
オフタイムのシーンの解釈は一転する。
この兵士の笑いながら、
泣いていたのだ。

topへ

新井奈生 15年6月13日放送

150613-04

「破壊できない愛」

スモーキー・ロビンソンの妻、
クローディアは、彼のコーラスメンバーだった。

連日の過酷なスケジュールの中で、
彼女は妊娠していた。
ステージを中止にしたくない。
その一心で、彼女は出血をひと月以上も隠し続けた。
結果は流産。
しかも、6度目だった。

もう、子どもは産めないかもしれない。
うちひしがれる妻のために、スモーキーは歌を書いた。

“年齢や時間が破壊できないほど、君に愛と喜びを注ぐ”

たとえこの先、子どもができなくても、愛する気持ちはゆるがない。
ラブソングにはふさわしくない、“破壊”という歌詞に、
スモーキーは必死の想いを込めた。

曲名は、“More Love”。
後に、彼を代表するラブソングになる。

topへ


login