‘江口順也’ タグのついている投稿

江口順也 10年03月14日放送



前田利常

能ある鷹は、爪を隠す。

しかし、その男は、
逆に、あるものを思いきり見せつけた。

鼻毛である。

人呼んで、鼻毛の殿さま。
前田利家の息子、利常。

加賀100万石の跡目を継いだ彼は、
長さ一寸、3センチもの
鼻毛を伸ばしてバカ殿を演じ、
隙あらばお家を潰さんと目論む
徳川家の警戒心をかわし続けた。
その裏、きめ細やかな政治を行い、
加賀藩はさらに百年のにぎわいを見せる。

能ある鷹は、鼻毛を伸ばした。

その1本1本に、
プライドと覚悟を秘めて。



手塚治虫

ベレー帽に破顔の笑みをたたえた
あの写真からは、
とても想像がつかないけれど。

神様はいつも怯えていた。

手塚治虫。
マンガの神様。

揺るぎない名声を築いてからも、
たえずライバルを警戒し、
弟子の才能に嫉妬し、若手の台頭に、
頭をかきむしったという神様。

あるとき、いちばんの敵と睨んでいた作家が
不慮の死を遂げた日のことを、
後に彼は、ざんげを込めてこう告白している。


 あぁ、ホッとした。
 なんと情けない俺だろうと、
 つくづく嫌になった。

ある学者の論文によれば。
人間の才能開発にもっとも効く劇薬は、
「劣等感」だそうだ。



高杉晋作

世が世なら、
パンクロッカーにでも
なっていたのだろう。

男は、折り畳み式の三味線を
戦場を持ち込んで、
唄など口ずさみながら、
何度も巨大な敵に刃向かい、
たてついた。

幕末の空気は、歴史の中のことでしかないけれど。
彼が残した、ただこの一言が、
僕らにリアルな勇気をくれる。


 おもしろき こともなき世を おもしろく
 高杉晋作




アンディ・ウォーホル

60年代の始まりに、
だれもが何かの予感を抱いていたころ。
若きウォーホルも、
みんなに聞いて回っていた。

ボクは、何を描くべきだと思う?

尋ねても尋ねても答えは見つからない。
来る日も来る日もキャンベルのスープを飲み、
TVを見て過ごした。

そんなある日、ふと気づくことになる。
生み出すものなんて、何もない。
ならいっそ、すべてを消費してしまおうと。

そして数年後。

世界中のオシャレピープルが、
そのへんのゴミ箱にありふれたコーラの瓶や、
スープの缶が描かれた絵を、壁に貼るようになった。

みんな、ウォーホルのこのセリフに
ころりとやられてしまったんだ。

大統領だって、リズ・テイラーだって、
コカ・コーラを飲んでいるんだ。
考えてもごらんよ、
そのコカ・コーラをきみも飲むことができるんだぜ。



エリック・クラプトン

そのインタビュアーは大胆にも、
エリック・クラプトンに2度同じ質問をした。

ギターの神様と呼ばれる気分は?

30歳だったクラプトンは、
こう答えた。


 ボクを神だなんていう言い方は、
 神を冒涜しているよ。

さらに、30年後のクラプトン。
今度はこう答えた。


 うれしいよ、
 ボクにも少しは良いところがあるってことだからね。

神は、ひとつの真実を示された。

一流の人ほど、
謙虚であるということを。

topへ

江口順也 10年02月20日放送

01-konpo

クリスト

ときに人間は、
情けないほど鈍感で。
なにかを失って初めて、
その尊さや意味に気づく。

そんな性を、逆手に取った芸術家がいる。
包むアーティスト、クリスト。
その作風は、ひとことで言うと「梱包」。

パリのポン・ヌフ橋、
ドイツの旧国会議事堂、
マイアミの島々、
オーストラリアの海岸。

彼は、美しい大自然や巨大な建築物を
布ですっぽり覆い隠して、
ものの本質を私たちに突きつけてきた。

そんなクリストが、
いま、いちばん梱包したいもの。

きっとそれは、地球に違いない。

02-ekuni

江國香織

むかし、炊飯器の広告で、
「お米が立っている」
というコピーがあったけど。
この本の言葉たちは、
まさにジャーの中のごはんそっくりに
ぎっしり立っている。

作家の江國香織さんは、
ある新聞の書評欄に、そう書いた。

ことばは、おこめ。

ひと文字、ひと文字、
よく噛み締めて、味わえば、
新しい私が作られる。
それがきっと読書の醍醐味。

醍醐味の味(み)は、
味(あじ)という字だ。

03-nakamura

中村俊輔

芸術的なフリーキックや、
精密機械のようなパスとは別に。
中村俊輔にはもう一つ、
だれも持っていない武器がある。

15年間書き続けた、
サッカーノートだ。

自分の弱点を毎日丹念に書き付けた12冊のノートは、
戦友であり、辛口の専属コーチ。

苦しい時ほどページをめくり返し、
危機を乗り越えてきた中村は、
現在、スペインのリーグでプレイをしている。

その舞台は、今から5年も前に、
未来の目標として、
ノートに書き込まれた場所だった。

04-katsu

勝 海舟

勝海舟は、交渉の達人だった。

大奥の最大権力者である
天璋院篤姫が、プライドを傷つけられて
カンカンに怒ったある日のこと。

勝にとって彼女は、
今で言えば、社長の奥様。

その篤姫が、
怒りのあまり自害するといってきかないときに、
勝はスキを見て、こう申し出た。

あなたが亡くなれば、
私だって、ただじゃ済みませんので、
すぐさま、お隣りで切腹します。
すると大変お気の毒ですが、
私とあなたは心中とか何とか言われますよ。

篤姫は、さっきまでとは違う意味で、
顔を真っ赤にして、ふりあげた刀を下ろしたそうだ。

この勝負、勝の勝ち。

05-lee

ブルース・リー

TVのインタビューで、
達人は、こうみんなに語りかけた。

 こころを空っぽにして
 形をすてろ 水のように
 水は流れることも
 水は砕くこともできる
 友よ、水になれ

ブルース・リー。

型を繰り返し、型を重んじることで
カンフーの道を極めた男は、
型から自分を解き放つことの
たいせつさも知っていた。

それは、どんな道にも通ずる哲学。

06-matis

アンリ・マティス

むずかしい解説や論評を前に
アートにひるんでしまったことがある人には。
マティスの絵をおすすめしたい。

彼は、こんなことを言っている。

  私は人々の疲れをいやす、
  よい「肘掛けイス」のような芸術を
  目指したい。

肩の力を、ゆっくり抜いて。
ただ感じるままに眺めればいいのだ。

topへ

江口順也 10年01月16日放送

01-katsu

勝新太郎

「男の意地」で、
ネットを検索しても
出てこないけれど。

あれは確かに、
役者という
生き様を商売にしてきた男の
意地だった。

癌にのどを犯されて、
休業を余儀なくされた勝新太郎。
復帰初日の記者会見。

 医者に止められたから禁煙した。
 もう煙草は吸っていない!

そう言ってカツシンは、
その場で1本、美味そうに火をつけた。

02_ponne

アイザック・ニュートン

およそこの宇宙における
すべての物質には、
互いに引き合う力が働いている。

アイザック・ニュートン、
万有引力の法則。

それは、
太陽と地球のあいだにも。
地球とリンゴのあいだにも。
つまり、ボクとキミのあいだにも?

なんて考えていたら、
ニュートンが最後にたどり着いた
答えがあった。

 天体の動きはいくらでも計算できるが、
 ひとの気持ちは、とても計算できない。

恋に法則は、
自分で見つけないと
ダメみたいだ。

03-nino

二宮金次郎

年が明けると。

こどもの頃は、
よく先生や親に促されて答えていた、
「今年の抱負」。

大人になって、
すっかりおざなりになってしまったけれど。
かつて小学校で毎日会っていた、
二宮金次郎さんの意見を聞いてみよう。

  聖人は欲が大きく、
  凡人は欲が小さい。

今年は、ちょっと欲深く、
いってみましょうか。

topへ

江口順也 09年12月19日放送

01-exile

Hiro(EXILE)

景気の二番底に怯える
大企業を尻目に、
今年、あるベンチャー企業が、
日本を騒がせている。

社長が踊り、社員が歌う。

EXILEだ。

ダンサー兼社長のHiroは、
こう信じているという。

  会社は、みんなの夢を叶える場所。

劇団を立ち上げ、アパレルを手がけ、
バラエティに出て、
居酒屋や学校までも運営する。
どれも、社員の夢を、
ひとつずつ叶えていっただけ。

永い不況から目を覚ますコツ。
夢は、布団ではなく、会社で見ること。

02-Ashley

アシュリー・ヘギ

今年もあっという間だったなんて、
木枯らしに身を縮めてつぶやいていては、
この子に怒られてしまう。

アシュリー・ヘギ。
1年で人の10倍歳をとる難病におかされた女の子。

ネイルを塗りたい。アルバイトもしたい。
17歳の心に、100歳の体が立ちはだかる。
けれど、いつも貪欲に、青春に挑んだアシュリー。

今年、高校を卒業する前に
人生を卒業することになった彼女は、
こんな言葉を置いていった。

  人生は、長さじゃない。どう生きるかなの。

みなさん。

2009年は、あと12日も残ってますよ。

03-radios

忌野清志郎

しゃがれた声で
兄さんはいつも、
こう声を掛けてくれた。

  愛してるぜ、ベイビー。

永遠の少年、キヨシロー兄さん。

社会という教室でギターをかき鳴らし、
まっすぐで透明な想いをファンキーに叫び続けた。

その、ラストシャウト。

  Ohラジオ、
  聴かせておくれ
  愛と平和のうたを。

癌におかされた喉で歌い上げた
Rockのタスキは、
しっかりとつながったのか。
ラジオのツマミを
僕らは回しつづけよう。

04-kureshin

クレヨンしんちゃん

早く大きくなりたい。
子どもたちがそう思えるような
世の中をつくること。
それが大人の仕事。

クレヨンしんちゃん、
5際のしんのすけは言った。

  おら大人になりたい。
  大人になってキレイなお姉さんとおデートしたいんだ。

この週末は、
ちょっとオシャレして街を歩きましょ。

05-misawa

三沢光晴

プロレスラー三沢光晴さん、
試合中の事故で亡くなる。
そんなマスコミの報道に、
ファンの誰かが怒った。

  事故なんて、言わないでほしい。
  まるで不注意みたいではないか。
  プロレスで死に、闘いで死んだのだから。
  それは戦死だ。

派手なパフォーマンスや
言葉を嫌うかわりに、
相手の技を真正面で受けて倍にして返す。
体で語るレスラーだった。

その最後のボディランゲージを、
まだ誰も、うまく読み解くことができない。

06-reiko

大原麗子

「かわいい」と
「かわいらしい」は、違う。

かわいらしい女といえば、
ずっと大原麗子のことだった。

  すこし愛して、ながーく愛して。

この名コピーは、
彼女を人々の記憶に
封じ込めることに成功する。

  死んだ女より、
  もっとかわいそうなのは、
  忘れられた女です。

という詩を書いたのは、
マリー・ローランサン。
その名も「鎮静剤」。

そろそろこの薬が、
麗子さんにも効いてるころだろうか。

topへ

江口順也 09年11月22日放送

04-socrates


ソクラテスの夫婦論

学生のころ、
教科書で習った哲学は、
さっぱりだったけど。

ひとつだけ気になる言葉があった。

 ともかく結婚せよ。
 もし良い妻を持てば、幸せになるだろう。
 もし悪い妻を持てば、哲学者になるだろう。

ソクラテスの名言。

あれは、どういう意味だったんだろう。
わが妻に聞いてみたら、

そこの洗濯物たためば分かるんじゃない?

と、返された。

今日は、いい夫婦の日です。

05-ny


世界一の権力者

NYのとあるパブで、Mr.Aが謎かけを出した。

世界でいちばんの権力者は?

そりゃぁ大統領だろうと、
Mr.Bは答えた。

するとAは、こんな小話をはじめた。

 ねぇあなた、同窓会でジョンに会ったの。

 彼はいま、何してるんだ?

 小さな会社勤めよ。

 キミは私と結婚してよかった、何しろ大統領夫人だ。

 違うわ、私と結婚してたら、彼が大統領だったわ。

腹を抱えて笑う、Mr.B。

と、Bの胸元で、携帯電話が鳴った。
Aの携帯にもメールが届いた。

 嫁さんからだ!

そう言って二人は、慌てて家へ帰っていった。

今日は、いい夫婦の日。

06-napoleon


ナポレオン&ジョセフィーヌ

 3つのキスを贈る。
 キミの心に、くちびるに、そして瞳に。

戦場からのラブレター攻撃で、
あこがれの女性を攻め落とした、
ナポレオン。

しかし、愛を勝ち取ってわずか二年。
妻への手紙は、こうも変化する。

 お前を憎む。
 夫のために、たった5行の手紙すら書こうともしない、
 薄情なお前を…

ナポレオン閣下、
男と女は、結婚してからが本当の戦いなのです。

今日は、いい夫婦の日。

topへ

江口順也 09年9月20日放送

E.yazawa1

矢沢永吉 12歳

はじめてビートルズを聴いたとき、
あなたは、なんて思っただろうか。

12歳だった矢沢永吉は、
ラジオから流れてきた
“プリーズ・ミスター・ポストマン”を耳にして、
こう思った。



 こいつは、儲かりそうだ。


海の向こうのサクセスストーリーを、
矢沢少年は、
他人事では片づけない。

もしかして俺だって、音楽をやれば、
世の中ひっくり返せるんじゃねぇの?

イギリスから来たポストマンが
広島の少年に届けたのは、
ロックスターへの招待状だった。

E.yazawa2

矢沢永吉 上京

ふるさとを捨て、
ロックスターになるために上京してきた
若き日の矢沢永吉。

その口は、もっぱら二つのことに使われた。

ひとつは、歌。

もうひとつは、ハッタリ。

初めてのマスコミ取材で、
大新聞の記者を相手に
将来の目標を、こう答えてみせた。



 10メール先のタバコ屋にもキャデラックで行って、
 ピュッとハイライト買えるくらいの男になりたいっすね。


ツテもない。金もない。夢しかない。
ナメられたら、はい、それまでよ。
オレに、還る場所はない。

ヤザワのハッタリは、
自分を夢から逃げさせないための
ディフェンスラインだった。


E.yazawa3

矢沢永吉 スター街道

階段を一段抜かしで登っていくと、
人よりも早く、てっぺんに着く。

矢沢永吉の生き方には、
そんな無言のルールが感じられる。

初めてのライヴハウス、皆が浮かれているときに。
ヤザワは独り、それをどうレコード会社に売り込むか考えていた。

デビューバンドが、全国のチャートを沸かせているときに。
ヤザワは独り、世界の音楽シーンへの挑戦を考えていた。

いつも周囲より、一段先へ、先へ。
それが幼いころからの矢沢のクセであり才能であり、
孤独。


 
 お前らとは夢のデカさが違うんだ。


そう心に秘めながら、走り続けたその道を、
人は後から、スター街道と呼んだ。


E.yazawa4

矢沢永吉 臆病

みずから敵の間へ躍り込んでいくのは、
臆病の証拠であるかもしれない。

と言ったのは、ニーチェだ。

矢沢永吉は、自身を臆病者と呼ぶ。


 「大丈夫かな?」
 「今のオレは、間違ってないか?」
 「後悔してない?」
 「これでいいのか?」


そういつも、自分にクエスチョンしている。

臆病なやつは、常に怖れているから、
次にどうすべきかを必死で探る。調べる。計算する。

大胆なライオンよりも、
本当に恐いのは、
臆病なライオンのほうだ。


E.yazawa5

矢沢永吉 どん底

てっぺんを走っていた男は、
ある日、どん底へと突き落とされる。

スタッフに裏切られ、
35億円というフザけた借金を
ひとり背負わされた、矢沢永吉。

傷つき、落ち込み、苦しみ抜いて、
しかし男は、こう考えるようになった。



 これは、矢沢永吉という役なわけ。
 田舎から夜汽車に乗って上京し、
 いろいろ苦労して最後にスーパースターになるって役さ。
 悪くないだろ?


視点を変えれば、気持ちが切り替わる。
地獄から這い上がったスターは、
いま苦しい人に、強く語りかける。



 リストラされたって、借金を背負ったって、それは役だと思え。
 苦しいけど死んだら終わりだから、本気でその役を生き切れ。

E.yazawa6

矢沢永吉 スタイル

テクノロジーが、あっという間に、
ものごとや価値観を変えていくようなときに。
矢沢永吉は、こう答えを出した。


 
 ひとつだけわかったことはね、
 ダウンロードできないものを作らないといけないと思ったの。


すべては検索でき、すべてがデジタルコピーできる時代。

歌はダウンロードできる。

しかしスタイルは、ダウンロードできない。

E.yazawa7

矢沢永吉 Happy Birthday.

時間よ止まれ。

かつて、
そんなタイトルで日本中を酔わせた
矢沢永吉も、

五日前に60歳の誕生日を迎えた。

Happy Birthday、永ちゃん。

二十代の終わりに出した
自伝「成りあがり」を開くと、
こんなことが記されている。



 50になってもケツ振って
 ロックンロールを歌ってるような
 かっこいいオヤジになってやる。


今夜、開かれるのは、
予言の年齢を10も超えた
「還暦記念ライヴ」。

その公演タイトルはズバリ、

「ROCK’N’ROLL」。

topへ

江口順也 09年8月9日放送

0桜木


バスケットマン、桜木。
  

10代を部活に明け暮れたやつは、
夏になると、あの頃を思い出す。

部活は、家。

そこには、絆があって、居場所があって、いざこざもあって。

部活は、檻。

そこから、みな一度は脱走を企て、縛られない自由に憧れて。

部活は、幻。

そこでの、とくべつな日々はいつか終わるという覚悟の下で。

湘北高校バスケ部に入部した、桜木花道は、
夏の体育館で、シロートから天才への進化を遂げる。

その姿を、かつての部活少年、部活少女たちはみな、
ハラハラと、自分のことのように見守った。

だから、漫画「スラムダンク」は、1億冊も売れたんだろう。

みんなブーブー言いながら、部活が、大好きだったんだ。

キャプテン、赤木。


キャプテン、赤木。

夏の体育館は、
やる気なき者を追い出しにかかる。

肺がヤケドするかのような、熱の篭もった空気。

足を滑らそうと狙ってくる、汗まみれの床。

膨れ上がったボールは、本気でキャッチしないと、突き指をする。

そんな体育館を、湘北バスケ部キャプテンの赤木は、
誰よりも愛していた。

弱小チームでありながら、心はいつも全国制覇。
そのスピリッツに、僕らはいつも励まされた。

大人になった今も、ちょっと何かを怠けていると、
すぐに頭の中に聞こえてくるようだ。
あの、キャプテンの口癖が。

 「ばかもん!」

夏が来ると、部活の日々を思い出す。

青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。

シックスマン、木暮。


シックスマン、木暮。

多くの少年少女は、
10代の夏に、
初めての挫折を味わう。

「補欠」という現実。

部活の試合に出られない、レギュラーになれない、自分。

ある者は、悔しさをバネにする。
ある者は、悲しみにふさぎ込む。
ある者は、調子よくやり過ごし、
ある者は、不公平だと憤る。

ところが湘北バスケ部の控え選手、3年の木暮は、そのどれでもなかった。

自分を追い抜いていく後輩の成長を心から喜び、
負けじと、自らも練習に励んだ。

メガネ君と呼ばれた、その彼は、レンズの奥から、
いつもチーム全体を見ていたのだ。

木暮君が放ったシュートで、
ラスト1分、勝てば予選突破という最終試合。
湘北高校は見事に全国行きを決めた。

夏が来ると、部活の日々を思い出す。

青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。

090809-04


No.1ガード、宮城。

なんで、オレの敵はいつも、スゴイやつばっかなんだ。

なんで、オレより皆、10cmも背がでけーんだ。

なんで、オレはそれでも、まるで負ける気がしないんだ。

なにをして、オレはあいつらに、一泡吹かせてやろうか。

まったく・・・ アヤちゃん。

バスケ部のマネージャーだったキミに、
一目惚れなんてしたばっかりに。

こんな楽しいことになっちまった。

夏が来ると、部活の日々を思い出す。

青春のバスケ漫画「スラムダンク」の、
宮城リョータを思い出す。

天才シューター、三井。


天才シューター、三井。

かつて男はスターと呼ばれた。
バスケットボールで、かなうやつは殆どいなかった。

悲劇は突然。大怪我。長引くリハビリ。
拭えない焦りと、チームから必要とされなくなる恐怖。

そんな葛藤から、いつしかバスケを憎むようになっていた。
気がつけば、体育館に土足で殴り込んでいた。

しかし――――

  安西先生・・・ バスケが、したいです。

憧れの恩師の前で、男はウソをつけなかった。
バスケなんか嫌いだ、というウソを。

こうして、天才シューター 三井 寿 は再びコートに戻ってきた。
チームのためにすべてを捧げているうちに、
かつての自分を、とっくのとうに越えていた。

夏が来ると、部活の日々を思い出す。

青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。

スーパールーキー、流川。


スーパールーキー、流川。

二の腕が痛いほど、シュートを打ち込んだか。
両ヒザが笑うほど、ダッシュを繰り返したか。
目と閉じても、ゴールまでの距離が分かるか。
画面に穴が開くまで、対戦相手のビデオを見たか。
全身の筋肉と関節を、とことん苛め抜いたか。
バッシュを何足、履きつぶしたか。
勝つイメージを、何種類描いたか。

すべてにYesと答えられなければ、
湘北バスケ部のルーキー、流川と戦うには、まだ早い。
日本一の高校生を目指してるあいつのことだ、

 おめーにかまっているヒマはねぇ、

なんて言われんのが、オチさ。

夏が来ると、部活の日々を思い出す。

青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。

安西先生


安西先生

安西先生は、言った。

 あきらめたら、そこで試合終了だよ。

かつてスラムダンクという漫画が、
社会現象的にヒットする中で。
このコトバはいちばんの名ゼリフとして、
どんどん一人歩きしていった。

恋愛も、
犬のトイレのしつけも、
CO2削減も、

あきらめたら、そこで試合終了だよ。

そんなふうに言われたら、
あきらめるわけにいかない。

だって、試合を途中で投げるなんて、
部活少年のやることじゃないじゃないか。

井上雄彦


井上雄彦

高校のバスケ部を描いて人気絶頂だった
漫画「スラムダンク」は、
全国トーナメント第二戦という
中途半端なところで突如連載を終了した。

作者の井上雄彦は、こう言った。

 前の試合よりも、
 つまんない試合は絶対描きたくなかった。

バスケの神様マイケル・ジョーダンが、
これ以上、最高のプレイを見せることができないという理由で
引退したように。

井上の引き際は、まさにスポーツマンのそれだった。

topへ

江口順也 09年6月13日放送

window


ビル・ゲイツ   

毎週月曜日には、
ビル・ゲイツの言葉を噛みしめたい。

 自分が出したアイデアを
 少なくとも一回は人に笑われるようでなければ、
 独創的な発想をしているとはいえない。

そして、火、水、木、金と、
結局なにかを生み出すことができなくても、
また次の月曜日には、
同じ言葉を口にしたい。

いつかきっと、その仕事に、その日々に、
大きなWindowが開くことを信じて。

tv


マーシャル・マクルーハン   

テレビにとって、映画のスクリーンにあたるものは何か?
この問いに、何と答えるべきか。

ブラウン管? いや、液晶画面?

ところがマクルーハンの答えは、まったく違った。

 テレビの場合、映画のスクリーンにあたるものは視聴者である。

彼は、テレビという巨大な大衆メディアに映し出されるのは、

ふつうの人々、

つまり私たち自身の、夢や欲望、生活や人生が
コンテンツだと言い切ったのだ。

近頃、テレビがつまらない、という声をよく聞く。

それって、だれのせい?

プルースト


マルセル・プルースト

人はときどき、タイムスリップする。
ふとした匂いを嗅ぐことによって。

埃っぽい雨の匂いに、なにかを思い出したり。
公園の芝生の匂いに、いつかを思い出したり。

そんな体験を、「プルースト現象」と言うそうだ。

家マルセル・プルーストは、
生涯の大半をかけて、

記憶喪失の主人公が、
紅茶に浸したマドレーヌの匂いによって
過去を思い出す。

という長編小説を書いた。そのタイトルは、

 『失われた時を求めて』。

プルースト自身は、
どんな過去にタイムスリップしたかったのだろう。

彼は、その人生の最後に、
ママ!と叫んで、
息を引き取った。

tomie


山崎富栄

うどん屋の屋台で、
小説家のオサムに恋をした夜。

サっちゃんは日記にこう書いた。

 戦闘開始! 覚悟をしなければならない。

それは、戦さのような日々の始まりだった。

血を吐きながら執筆するオサムに寄り添い、
秘書として、恋人として、母として、看護婦として、
サッチャンは彼を支え続けた。
男が、よそで設けた私生児への養育費すら、
自分の貯金をはたいて、毎月こっそりと支払った。

そして、61年前の今日、
1948年6月13日。
その恋は、終戦を迎える。

太宰治と、その愛人サっちゃんこと、山崎富栄。
入水自殺。

 幸せな死に方をして、ごめんなさい。

と、遺書に残した彼女は、

勝ったのだろうか、負けたのだろうか。

more


リバー・フェニックス

あんなに大勢の女の子を
一度に泣かせた男は、
いなかったんじゃないか。

リバー・フェニックスのことだ。

 死体置き場の中で、いちばん美しい死体になりたい。

なんてカッコつけて、
雑誌のインタビューに答えていた彼は、
その後本当に、23の若さで、
死体置き場に転がった。

友達のナイトクラブで、
友達にすすめられたドラッグを、
断り切れなくて。

あとはただ、
泣きじゃくる女の子を前に
困り果てた男の子たちが、
世界中の国にいたことを
覚えている。

carnegie


アンドリュー・カーネギー

かつて、
経済には
ロマンがあった。

人生の前半をかけて、
莫大な金を稼いだ、
アメリカの大富豪カーネギー。

彼の人生の後半は、
持てる財産のすべてを
社会のために使い切ることに
費やされた。

その理由が、ロマンチックだ。

 金持ちのまま死ぬなんて、もっとも恥ずべき死に方だ。

いま、カーネギーがいたら、
この経済危機に、
何て言っただろう。

sky


レイ・クロック

マクドナルドの創業者、
レイ・クロック。

そのビジネスエピソードには、
凄味がある。

よく彼は、夜中にライバル店のゴミを漁り、
仕入れや消費のヒントを探したという。

そこから名づけられた、
自伝のタイトルは、

『成功は、ゴミ箱のなかに。』

どうやら、
空を見上げて
ただ成功を夢見ていても、
いいことなんて
なさそうだ。

topへ

江口順也 09年5月3日放送

300760main_image_1258_800-600


村上春樹

メロスは、
友の信頼に応えるために
走り続けた。

村上春樹氏は、
なんのために
走り続けるのだろう。

彼は、小説家になって以来、
フルマラソンに挑み続けている。

12時間をかけて、
100キロを走破したこともある。

なぜ、そこまで自分を追い込むのか。
彼はこう答えた。

 小説には毒が必要だ。
 自分の中にある毒なるものを抽出するためには、
 肉体は健全でなければならない

春樹氏が走り続ける限り、
ファンたちが裏切られることはないだろう。

reno17


飯島 愛

おなじ町内に住んでいて。

時おり姿を見かけると
とびきりセクシーで。
ほんとにこの辺の住人かな、
と思うような年上のお姉さんが
どんな街にもいる。

そんな子が、
突然ある日、遠くへお嫁に行ってしまった。
去年のクリスマス。

飯島愛さんが
もういないと聞いたとき、

そんな感じがしませんでしたか。

thomas_edison


トーマス・エジソン

亡くなる2年前。
エジソンは、こんな問題を出した。

一、 1億円の遺産があったら、何に使うか。

二、 幸福 快楽 人気 名誉 財産 愛情の中で、
いちばん欲しいものは何か。

三、 死ぬ前に人生を振り返るとき。
何をもって、成功だったか失敗だったか、判定するか。

四、 どういう場合に、うそをついてもよいと思うか。

不況にあえぐ世界の行く末を心配した彼は、
みずから資産を投じた奨学金制度を設け、
そのテスト問題も、みずから考案したのだ。

技術や知識より、人間性を問うたこの4問。

エジソンが最後に発明したかったもの、
それはきっと、

希望だった。

m_060409072_020


香山リカ

ふと声が聴きたくなる。

そんな、古い友だちはいますか。

むかしよく遊んだその女の子は、
愛くるしい顔立ちだった。

デザイナーの母と、
フランス人音楽家を父に持つ、
裕福な家柄。

いつもキレイに着飾った彼女といると、
まるで自分まで、
セレブの仲間入りをしたような気になれた。

落ち込むことがあった日は、
その子によく電話したものだ。

ケータイなんて、なかった時代。
黒電話の受話器から聞こえてくるその声は、
いつだって、やさしかった。

もしもし、わたし、リカちゃん…

今もきっと、
どこかの少女の悩みを聞いてあげている。

今日は、リカちゃん人形の誕生日。

800px-plattsmouthnedowntown


エリオット・スミス           

多くの天才たちがそうあるように
彼もまた、短命だった。

享年34才。

多くの天才たちがそうあるように
彼もまた、苦悩していた。

うつ病、薬物、アルコール依存症。

多くの天才たちに続くことなく
彼だけは、スターになることを拒絶した。

アカデミー賞 授賞式での演奏後。

 僕はこんな世界に住みたいとは思わない。
 でも1日だけなら月の上を歩いてみるのも悪くなかったよ。

ローリング・ストーン誌による
史上最も過小評価されているギタリスト25人に選ばれた男、
エリオット・スミス。

lincoln_burried_in_1865


エイブラハム・リンカーン

世界は一つしかない。

それを、
上から見下ろす人と、
下から見上げる人が、
いるだけだ。

22歳で破産し、
無一文になったリンカーンは、
8度の落選を経て
大統領になった。

あるとき、
廊下の片隅でしきりに靴を磨いていると、
そんな真似はおやめくださいと
秘書にたしなめられる。

リンカーンは笑った。

靴磨きは、恥ずかしいことかね。
大統領も靴磨きも、どちらも人のために働く仕事だ。

下から見た景色を胸に焼き付けて、彼は、一番上に立った。

そして、全米の奴隷が解放された。

800px-andhy_tres_pesos_cubanos_che


エルネスト・ゲバラ

革命への情熱ひとつで
キューバにやって来たエルネストは、
だれにでもよく声をかけた。

ねぇ、体の調子は大丈夫かい。

ねぇ、俺たちで世界を変えよう。

ねぇ、ねぇ、ねぇ。

子どもに、農民に兵士に、
人懐っこく呼びかけるこの口癖は、
いつしか彼のアダ名となっていく。

母国、アルゼンチンの言葉で、

「チェ」

エルネスト・ゲバラを、

民たちの愛が、

チェ・ゲバラに変えた。

m_070128015a_002


泉 重千代

ユーモアとは、
心の健康をあらわす言葉では
ないだろうか。

120歳で世界最長寿の
記録者となった泉重千代さんは、

取材陣に、
好きなタイプの女性を聞かれ、
こう答えている。

やっぱり、年上の女かのぅ。

balboa_2_bg_122102

topへ

江口順也 09年4月26日放送

491px-chaplin_the_kid


チャーリー・チャップリン

TVをつければ、お笑いだらけ
新聞をひらけば、笑えないことばかりの

あべこべなまいにち。

かつて暗黒の時代に、
世界中の人をゲラゲラさせたチャップリンはこう言った。

 ヒトラーという男こそ、
 笑い者にしてやらねばならないのだ

さて。

僕らはいま、だれを笑い者にすればいいのだろうか。

vertical-ladybug


野比のび太

少年は、落ちこぼれだった。
でも、

 あきらめのいいところがぼくの長所なんだ

そう言ってケロリとしていた。

 今もってる自転車は嫌いだ!乗れないから

そう開き直ったりもした。

社会なんて、知れば知るほど、デタラメなのかも。

ときどき人のせいにした。

でもある日、こんなことに気づく。

 いちばんいけないのは、じぶんなんかダメだと思いこむことだよ

その言葉に、おとなもこどもも励まされた。

少年の名は、野比のび太。

日本人は、彼といっしょに大きくなった。

san-antonio


ロベルト・グッチ

グッチが欲しいわ。

今日もだれかが、だれかに、おねだりしている。

15年前。その名をめぐり、
激しく身内で争ったグッチ家の人々は、
グッチの名前を、資本家に取り上げられてしまった。

いま、三代目のロベルト・グッチ氏は、
一族の誇りをふたたび取り戻そうと、
まったく新しいブランドを立ち上げている。

決してグッチの名前を出してはならない、
という約束のもとで。

グッチが欲しいわ。

そう言ったかどうかは、だれも知らない。

e899b9


カズ

だれより先に、世界へ飛び出していった。
だれより先へと、日本を引っ張った。
だれよりもたくさんイメージし、
だれよりも、その日を夢見ていた。

でもカズは、ワールドカップに出られなかった。
だれよりも、サッカーの神様を愛していたのに。

そんなカズがよく使う言葉、
ボア・ソルチ。

ポルトガル語で、GOOD LUCK、だそうだ。

456px-guerrier_dacota


イシ

まだ、グローバル化という言葉はなかった。

1915年のこと。

インディアン狩りに追われ、
死を覚悟で白人の町に現れた
人類最後のインディアン、イシは、
世界に別れのメッセージを残した。

 あなたは居なさい、ぼくは行く

それは、部族に代々伝わる
ヤヒ語で語られた、最後の言葉だった。

ひとつの言語が消える瞬間。

英語は、殺し屋だった。

pool-2


たけしさんと関根さん

その番組には、たけしさんがいた。
面白いことは全部、たけしさんが言ってしまう。

男は、もがいていた。

そんなある日、彼は、
ほんとうにどうでもいいようなことを言ってみた。
ふと思いついた、本当に本当に、どうでもいいことを。

 今のVTRに出てきた人、次男っぽいですよね

スタジオは、
笑いの渦に包まれていた。
だけしさんも、笑っていた。

その男とは、関根勤さん。

どんな場所にも、ポジションは、きっとある。

los-angeles-skyline


スティーブ・ジョブス

天才の条件。
その一つは、
いつまでも子供でいられること。
利害や損得を気にせず、
情熱や好奇心で動けること。

10年前、スティーブ・ジョブスは、
つぶれかけた古巣のアップル社に、
わずか年俸1ドルで復帰した。

やがて、

1年で、imacが。

5年で、ipodが生まれた。

天才の給料は、いまも1ドルのままだという。

clouds-2


王貞治

世界のホームラン王と言われた
王貞治のバットから、
まったく音が消えてしまったことがある。
第699号を打ってからの20日間。
あと1本が、どうしても出ない。

焦る姿を見かねた知人は、
ある一言をアドバイスしたという。

その翌日。

第700号ホームラン、達成。

いったい知人は、何と言ったのか。

 あと1本で700ではなく、
 あと101本で800だと思えばいいさ

数字の魔法が、王様を救った。

sunset-3

topへ


login