sabamiso
内田百間 ノラや
幸せだった。
ある日、庭に現れた野良猫ノラと
暮らしはじめた、随筆の神様、内田百間。
ノラへの愛情をてれくさく感じ、
お得意の屁理屈を並べるものの、
いまいち切れが悪い。
突然、ノラが失踪。
百間は新聞に迷い猫の広告を出し、
近所にビラも配った。
ノラやノラや、お前はもう帰って来ないのか。
風呂にも入らず顔も洗わず、泣き暮らした。
その涙が乾いた頃、百間の傍らには新しい猫がいた。
名はクルツ。
ドイツ語で「短い」という意味。
しっぽが短いという理由だが、
自分の心変わりと、ひとのこころの短さを、
皮肉っているのかもと勘ぐりたくなる。