マイヤ・プリセツカヤ②
20世紀最高のバレリーナ、マイヤ・プリセツカヤ。
最高のバレリーナと呼ばれる所以は、
最高のパフォーマンスを、どんな時でも、見せてくれたからに他ならない。
フィレンツェで、「かもめ」という演目を踊ったときのこと。
左足の指を骨折していた彼女は、
1時間かけて塩化エチルで指を麻痺させ、いつもどおりに舞台へ立った。
すさまじいまでの忍耐強さが培われたのは、
スターリンの支配下で暮らした幼少期。
父親が処刑され、母親と弟が収容所へ連れていかれた絶望の中でさえも、
彼女は踊ることをやめなかった。
家族の分まで踊らなければ。それが自分の使命だと信じていた。
晩年、彼女はこんな言葉を残している。
「どんな場所にいても、なぜそこにいるのかがわかっていなければならない」
多くの人に支えられて舞台に立てる幸せと責任を、生涯忘れなかったのだろう。