Thomas Gehrke
プレゼントのはなし 受け継がれるプレゼント
知らぬ間に両親から受け継いでいた。
その事に気づくのは
意図せず自分に父の癖が出てきたり、
電話の声を母と間違えられたりした瞬間だろう。
作家の吉本ばななは、父で詩人の吉本隆明から
「上手に自分を律する方法」を受け継がせてもらったのだと言う。
作家の生活は自分次第。いつ気を抜くか、追い込むか、
新人のころは勝手がわからず、そのままつぶれてしまう作家も多い。
しかしばななは迷わなかった。
父が夕方になるとフラっと外出していたように、
自然と夕方くらいに落ち着かなくなり、買い物がてら散歩に出かける。
これでバランスを取っているのだ。
そんな素敵なクセを娘にくれた隆明が昨年亡くなった。
その寸前、ばななは言った。
「私はお父さんの娘でいて、
いやなことが一個も、ほんとうに一個もなかった。
それはほんとうに幸せなことだったと思います」
親から受け継いだプレゼントを自分のものとして生きていく。
それを、幸せな生き方と呼ぶのかもしれない。