‘茂木彩海’ タグのついている投稿

茂木彩海 16年10月30日放送

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Dal Lu
お風呂のはなし 湯布院のはじまり

いまとなっては国内有数の温泉地として知られている湯布院。
ところが40年程前までは、奥別府と呼ばれる小さな温泉街だった。

ここを、観光地・湯布院として生まれ変わらせたのが、
中谷健太郎。
現在も続く老舗旅館「亀の井別荘」のオーナーだ。

明治大学卒業後、東宝に入社した中谷は
黒澤明監督らの下で助監督を務めるほどの映画人であったが、
父の急逝により実家の旅館「亀の井別荘」を継ぐことになる。

廃れた温泉街をどうしたら盛り上げることができるか。

頭をひねった中谷は、自分の得意技である映画で解決を試みた。
今年で第41回を迎える、湯布院映画祭だ。

中谷は言う。

 「温泉」は地球の中の子宮のような、自然の温かみがある。

こんな表現ひとつとっても、かつて映画を愛したように
温泉を文化として、作品として愛す中谷の想いが伝わってくる。

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茂木彩海 16年9月25日放送

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sheshakes
服のはなし 哲学する服マルタン・マルジェラ

服を哲学するデザイナー、マルタン・マルジェラ。
彼のテーマは「ブランドとは何か」。

モデルには一般人を起用し、
ブランド名はいつでも服から外せるように、4角を糸で止めるだけ。
質問状はファックスでのみ受け付け、マスコミには一切露出しない。

変わり者。
そう言ってしまえばそれまでだが、服への自信はタグを見れば一目瞭然。

 0 – 手仕事により、フォルムをつくり直した女性のための服
 4 – 女性のためのワードローブ
 10 – 男性のためのコレクション

とことんブランド名を排除しながら、
身につける人を特定して、ためらう余地を残さない。

ブランドとはその人自身であるという
彼の哲学を身にまとい、今日も誰かが街を歩く。

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茂木彩海 16年9月25日放送

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dovima2010   
服のはなし ディオールの「ニュールック」 

第二次世界大戦の終焉から立ち上がり、
弱々しくも活気を見せはじめていたヨーロッパで
クリスチャン・ディオールはあるコレクションを発表した。

「カローラライン」
その名の通り女性を優雅な花の姿に見立てるもので
コルセットで腰を細く縛り、その下から
流れるように続く大輪の花のようなロングスカートが特徴だ。

機能的とは言えないこの服は
時代に逆行し、女性を美しいだけのオブジェにしてしまうと
フェミニズムの立場から批判されることも多かった。

ところが、ディオールのショーを目にした
世界初の女性ファッション誌である「ハーパーズバザー」の編集長
カーメル・スノーは、こんなコメントを残している。

 Your dresses have such a new look.
 なんて革命的なんでしょう。あなたのドレスは本当に新しいわ。

「カローラライン」が、「ニュールック」と呼ばれ、
ファッション誌にその歴史が刻まれた瞬間だった。

消費社会へ世の中が猛スピードで向かう中で、
ディオールはエレガントなオートクチュールを復興させた。

服は時代を映す鏡ではなく、なりたい自分の未来を映す鏡でもあると
ディオールは「ニュールック」で伝えて見せたのかもしれない。

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茂木彩海 16年7月31日放送

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David W. Carmichael 
記録のはなし スルヤ・ボナリー

1991年の世界選手権。

ここで幻の4回転ジャンプが氷上に舞った。
スルヤ・ボナリー。
当時圧倒的に数が少なかった黒人の女性フィギュアスケーターである。

得意のジャンプを武器に、数々の選手権で会場を沸かせたが、
4回転ジャンプですらも、
「表現力が足りない」「回転不足」などの理由から
入賞を果たせず、その実力がなかなか評価されない選手人生が続いた。

そんな中迎えた1998年長野オリンピック。

彼女は、競技ルールでは禁止されている後方宙返りを行った。
見たことも無い大技に歓声を上げる客席。
演技終了後、彼女は審査員に背を向けて、客席に向け、笑顔でポーズを取った。

せめて自分らしく終わろうと、彼女なりに決意した瞬間だった。

委員会の正式な記録では、この11年後、
女性で世界初の4回転ジャンプが成功したとされている。

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茂木彩海 16年7月31日放送

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記録のはなし 刈屋富士雄

「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ」

体操ニッポンが大活躍を果たした2004年アテネオリンピック。

男子団体、最終演技者の冨田洋之が鉄棒から降りた瞬間の
実況は、いまでも名実況として記録されている。

テレビ放送史に残る実況を行ったのは、
アナウンサーの刈屋富士雄。

実はこの時、刈屋はもともと別の言葉を用意していた。
「体操ニッポン、日はまた昇りました」。

しかし直前で、ローマ大会から実に28年ぶりの金メダル獲得を
過去の栄光と、これからの未来をつなぐ「架け橋」
という言葉で表現することを選んだ。

刈屋は言う。

 言葉は不思議で、その瞬間に出たから伝わる。
 1分ずれると伝わらない。命があるんですかね。

その瞬間を、言葉で記録する。
その言葉が、観る者の記憶をつないでいく。

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茂木彩海 16年6月26日放送

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masahiko
童謡のはなし かたつむり

 でんでんむしむしかたつむり
 お前のめだまは どこにある?

紫陽花が咲く季節に馴染み深いこの童謡だが、
冒頭の「でんでんむし」の由来とは、一体何だろう。

古典狂言の一つ「蝸牛」。

長寿の薬になるという「蝸牛(かたつむり)」を探すよう、
主人から命じられた召使い。
ところが、その生き物がどんな形か知らなかったので、
林の中にいた山伏を間違って連れ帰ろうとしてしまい、
「でんでん むしむし」と唄い、呆れられたという。

「でんでんむし」とは、今のことばで、
「出て来い虫」のこと。

晴れた日は居場所もわからないのに、雨が降ればひょろりと顔を出す。
きまぐれかたつむりに会いたくて、今日も誰かが歌を唄う。

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茂木彩海 16年5月29日放送

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Kristina Kuncevich
ペットのはなし 車椅子犬ウィリー

ペットとの出会いは皆様々だが、
テボラ・ターナーとウィリーの出会いは運命的だ。

チワワのウィリーがどのように生まれ、
育ったのかは誰にもわからない。ロサンゼルスの街なかに、背骨と、
声を出せないように声帯を傷つけられた状態で捨てられていた。

歩けない犬などいらないと、保護シェルターで
見向きもされなかったウィリーだったが、
ペットショップを経営していたテボラに引き取られることになる。

そこでウィリーが手に入れたものは、動物用の車椅子。
念願の足を手に入れた瞬間の様子を、テボラはこう振り返る。

 ウィリーはベルトを締めるや否や、
 まるで飛行機のように飛び出し、走り出しました。
 その瞬間、ウィリーは世界一幸せな犬だったのです。

22歳で天国へ旅立ったウィリー。
飼う、飼われるという関係を超えた幸せな絆が、ここにはある。

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茂木彩海 16年5月29日放送

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ペットのはなし シュルツのペット、スヌーピー

世界の中でも特に有名なペットとして知られている、スヌーピー。

チャーリーブラウンとの絶妙なやりとりで
心和ませてくれるこの犬のモデルは
作者であるチャールズ・シュルツが13歳の時に飼った雑種犬の「スパイク」。

シュルツ曰く、
人間の言葉を理解しているとしか思えないような行動をとる変な犬で、
この犬を描いた絵が新聞に掲載され、その後スヌーピーとなった。

漫画が売れて、有名になってからも派手な生活には一切
興味がなかったようで、仕事が終わり家に帰ると、
犬をかわいがるのが日課だったという。

そんなシュルツが遺した格言が、こちら。

 「幸せ」とは、あったかい子犬のこと。

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茂木彩海 16年3月27日放送

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qooh
桜のはなし 桜色の着物

お酒を飲みながら目で楽しんだり、
桜餅にして舌で味わったりするのと同じように、
布を桜色に染め上げて、着物にする。
これも昔からの日本の習慣だ。

桜の染色に必要なのは、意外にも花びらではなく、樹皮や、枝。

綺麗な桜色に染め上げるには、
桜が咲く前の木を使うのが一番だという。

その理由について、染織家で人間国宝でもある志村ふくみは言う。

 1年間じっと色を貯めていた桜の幹に宿した、生命の色をいただく

ほのかに色づく桜色を身にまとえば、
儚い命の力を借りて、春の喜びをより一層感じられるだろう。

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茂木彩海 16年3月27日放送

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Japanexperterna.se
桜のはなし 牧野 富太郎の目

ようやく訪れたお花見のシーズン。

お花見、とは言うものの
果たして花をしっかり見ているかと言われれば
怪しいのが本音ではないだろうか。

 花の着き方と開き方。
 花の部分的組み立て方とその形状。
 各部分の数と大きさと色と匂い。

日本の植物学者、牧野 富太郎の手にかかれば
お花見だって、こんなに本格的になる。

 単に見るばかりでなく、それを写生して絵にすれば
 さらにはっきり知ることができてよろしいのである。

自身を“植物の精だ”と語るほど花を愛した牧野。
この春は彼を見習って、本当のお花見、してみませんか。

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