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薄景子 15年11月8日放送

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quinn.anya
夫婦のはなし 行正り香

料理研究家、行正り香(ゆきまさりか)。
その人気のヒミツは、手軽でおいしいレシピだけでなく
女性の共感を呼ぶエッセイの数々だ。

彼女の独身時代のエッセイにこんな話がある。
留学していたときの友人に会いに、ジェノヴァに行ったときのこと。
友人の大家族に囲まれて歓迎を受ける中、
そのひいおじいちゃん夫婦から行正はつっこみを受ける。
「彼氏がおるのか?」「まだ結婚しないのか?」

「まあ、いないことはないんだけど、価値観が合わないし…」
そうこたえると、老夫婦はいったという。

「わしら、70年以上一緒にいると会話もない。
 じゃが、毎日グラス2杯のワインを飲んで、ばーさんのつくったものを
 食べるのがただひとつの楽しみじゃ」

夫婦の共通点は、ひとつだけあればいい。
料理はとかく、そのひとつになりやすい。

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薄景子 15年10月18日放送

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Benson Kua
日本語のはなし 想紫苑

日本の色を表す言葉は、その響きまでもが美しい。

10月の誕生色といわれる、想紫苑(おもわれしおん)。
秋の野に可憐に咲く明るい紫の花は、
風や嵐で倒れても、いち早く立ち直ることでも知られる。

紫苑の花には、こんな逸話もある。
昔、親を亡くした兄弟がいた。
兄は忘れ草といわれる萱草(かんぞう)を、
弟は思い草といわれる紫苑を、墓に植えたところ、
兄はやがて親を忘れるが、
弟はいつまでも思い続けたという。

しとやかな想紫苑の紫は、
どんな風にも想いを揺るがせない
ひたむきな美しさを秘めている。

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薄景子 15年9月27日放送

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Pen Waggener
お茶のはなし アイスティーのはじまり

紅茶をキリリと冷やしていただくアイスティー。
今ではすっかり定番の飲みものですが
このアイスティーが発明されたのは1904年の夏のこと。
アメリカのセントルイスで開催された万博会場でのできごとでした。

その万博で紅茶の試飲宣伝をしていたのが
イギリスの紅茶商人、リチャード・ブレチンデンさん。
折しも季節は夏。連日の猛暑の中、
湯気をあげた熱い紅茶になど、誰も見向きもしません。

半ばやけくそになったリチャードさんが
熱い紅茶に氷をたーっぷりいれて
「冷たい紅茶だよー」と叫んだところ、これが一躍大人気に。
のちにこの万博で一番のヒット商品になり、
アメリカ中で飲まれるようになりました。

偶然から生まれた、キリリとさえたグッドアイデア。
そんなエピソードを想いながらアイスティーを飲めば、
あなたにもヒラメキが訪れるかもしれませんよ。

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薄景子 15年8月30日放送

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涼菓の話 ネロのアルプスの雪

イタリアンジェラートの起源ともいわれる
こんな逸話がある。
紀元前1世紀頃のこと、暴君として知られた
ローマ皇帝ネロは、家臣たちにこう言った。

 アルプスの雪が食べたい。

その一言で、家臣は遠く離れたアルプスまで行き、
命がけで氷や雪を持ち帰った。
ネロは、それにフルーツや果汁、はちみつなどを加えて
愉しんだという。

まさに、暴君のわがままの極み…。
でも、そのおかげで、世界中でジェラートの幸せが
楽しめるようになったのかもしれない。

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薄景子 15年8月30日放送

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涼菓の話 壇一雄の杏仁豆腐

作家、壇一雄。
世界中を放浪し、特に料理には並々ならぬ情熱をかたむけ、
食の実用的エッセイ「壇流クッキング」を完成させた。

甘党だった壇がよく作ったのが、杏仁豆腐。
戦前の中国で覚えてきたのをきっかけに、家で再現をする。
壇は正統派の寒天菓子にこだわって、
寒天が入ると固くなりがちなところを
牛乳の量を調整し、絶妙なやわらかさに仕上げた。

壇はエッセイにこう記す。

固まり方が砂糖の量や、夏冬の寒暑によって微妙に変化するから、
大いに研究してほしい。
私などは十遍ぐらいは失敗した。

何度も失敗を重ねて完成した杏仁豆腐を
一瞬でつるりといただく幸せも、
格別だったにちがいない。

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薄景子 15年6月28日放送

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お米の話 八十八人の神様

子どもの頃、茶碗に一粒でもごはんが残っていたら、
「お米一粒には八十八人の神様が宿っているのだから、残さず食べるように。」
などと、たしなめられたことはないだろうか。

地域によって、神様の人数には諸説あるが
八十八人という数字の由来は、
米という字が、八十八という漢字からできていて
米の収穫までに八十八の工程があり、
手間暇かけた分だけ、神が宿るからだと言われている。

毎日のごはんが食卓に届くまでに、
作る人の手間と苦労と愛情がどれだけこめられているだろう。
そんな思いでごはん粒を見つめていたら、
お米そのものが神様ではないかと思えてくる。

きょうも、おいしいごはんを、ありがとうございます。
感謝しながらいただくと、ごはんはますますおいしくなる。

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薄景子 15年5月24日放送

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あいさつの話 小津安二郎の「お早よう」

小津安二郎のコメディ映画、「お早よう」。
作品の中で、親から「余計なことを言うな」と叱られた子どもが、
こう反撃するシーンがある。

「大人だってオハヨウ、コンチワ、イイオテンキデスネ、
 余計なこと言っているじゃないか」

子どもは鋭い。
人に会うたび、天気の話をするのは
たしかにどうでもいいことかもしれない。

しかし、このどうでもいいことがなかったら
人と人の関係はどれだけぎくしゃくするだろう。

どうでもいい話は、大人にとって
時に、肝心な話より大切なのだ。

さあ、今日も誰かと天気の話でもしてみるか。

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薄景子 15年4月26日放送

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眠りのはなし 松谷みよ子の「もうねんね」

ひとりでねんねがむずかしい
小さな子どもたちを
やさしい眠りに誘ってくれる絵本がある。

松谷みよ子さんのロングセラー、「もうねんね」

 ねむたいよう ワン いぬもねんね 
 ねむたいよう ニャーン ねこもねんね
 めんどりも ひよこも くうくう ねんね
 モモちゃんも もうふも おにんぎょうさんも とろとろ ねんね 

心地よいことばのリズムが
おふとんの中でささやかれる時間は、
この世でいちばん安らぎに満ちているんじゃないかと思う。

この春、永遠の眠りについた松谷さん。
彼女が遺したたくさんの絵本たちは、
これからもずっと、日本中の親子の時間の中で
やさしくやわらかに生き続けるだろう。

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薄景子 15年3月15日放送

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Alvesgaspar
旅のはなし ギュスターヴ・フローベールの言葉

旅するたびに、思うこと。

空は果てしなく続いているということ。
星は毎日、降り落ちそうなほど瞬いているということ。
一日のはじまりと終わりは、水平線がオレンジ色に染まること。

そして、日々、頭の中をいっぱいにしていた
あんなことも、こんなことも、
とてつもなくちっぽけなことだということを
旅は教えてくれる。

フランスの小説家、ギュスターヴ・フローベールは言う。

「旅は人間を謙虚にする。世の中で人間の占める立場が
 いかにささやかなものであるかを、つくづく悟らされるからだ」

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薄景子 15年2月7日放送

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名前のはなし ジョン・デュワー

世界屈指の人気を誇る
スコッチウィスキー、「Dewar’s」。

その創業者、ジョン・デュワーは、
手間と暇と丹精をこめれば
最高のブレンデッドウィスキーがつくれるという
信念を貫き、「Dewar’s」を生み出した。

彼は、このウィスキーになぜ「Dewar’s」と名付けたかを
きかれたとき、こう即答したという。

「もし、あなたがこの酒をつくったら、
 自分の名をつけずにはいられないだろう」

名を遺す。
それは、誇りを遺すということ。

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