Frank Kehren
空港のはなし
テンジン・ヒラリー空港。
かの有名な登山家の名を冠したその空港は、
ネパール東部のルクラという街にある。
その名から想像できる通り、
エベレストのネパール側登山口として利用される。
だが登山家たちにとって、
この空港は最初の関門と言えるのだ。
山の天候が非常に変わりやすいというだけではない。
標高が2,800 mと高いために大気密度が低く、
エンジンの燃焼効率が悪くなり、翼も揚力を得にくい。
なのにこの空港では、
たった一本しかない滑走路の長さがわずか460m。
パイロットには高度な技術が要求される。
着陸の際は滑走路南側からの侵入となるが、
12%の上り勾配が付いており、その先は山と壁。
スピードを落としきれなければ壁に激突する。
引き返してのやり直しもきかない、一発勝負。
離陸の際は逆に滑走路の北側から
下り坂を直進していくかたちになる。
短い距離で速度を上げなければならないが、
滑走路の先は深さ600mの谷。
離陸に失敗すれば、奈落の底だ。
登山の前からこれほどの試練を与えるとは。
やはりエベレストは、世界一の山だけのことはある。