ホームランの話 藤村富美男(ふじむらふみお)
かつて「物干し竿」と呼ばれた長いバットで
ホームランを量産した打者がいた。
ミスタータイガースこと、藤村富美男。
ヒントにしたのは知人に誘われたゴルフだった。藤村曰く、
「長いものでシバいたほうが、
遠心力があるからよく飛ぶだろうと」
しかし、理由はもうひとつあった。
「川上の赤バット、大下の青バットという時代。
拮抗してなにか特徴のあるバットはないかいな、とね」
そんな目立ちたがりは、
選手兼監督になってからも変わらなかった。
1956年6月24日の対広島戦。
1点ビハインドで迎えた9回裏2死満塁の場面で
3塁コーチについていた藤村は、球審にこう告げたのだ。
「代打、ワシ!」
スタンドの観客は大喝采。
そして打席に入って3球目。藤村の物干し竿が一閃すると、
打球はレフトスタンドへと消えていった。
それは日本球界史上2人目の代打逆転サヨナラ満塁本塁打。
そして、藤村にとって現役最後の本塁打。
ショーマンシップあふれるプロの生き様は、
最後の最後まで派手だった。