文(ふみ) 夏目漱石『こころ』
夏目漱石晩年の名作『こころ』。
わたくしはその人を常に先生と呼んでいた。
だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。
小説の前半は、鎌倉の海岸で出会った “先生”の姿が
先生の不思議な魅力にとりつかれた学生の目を通して描かれる。
後半は先生の謎に包まれた過去と内面が、
先生からの手紙という形式で語られ、明らかになる
対照的なふたつの文体により、人間の奥底に潜むエゴイズムと、
人間としての倫理観との葛藤が見事に表現される。
今月は文月。
手紙が鍵となる小説を読んでみてはいかがですか。