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雨に想う③ 川端康成
川端康成の「掌の小説」のなかに
『雨傘』という一編がある。
父親の転任のため離ればなれになる少年と少女。
雨の中ふたりは写真館へ行き、別れの写真を撮る。
要約すれば、それだけの話である。しかし、
写真屋を出ようとして、少年は雨傘を捜した。
ふと見ると、先きに出た少女がその傘を持って、
表に立っていた。少年に見られてはじめて、
少女は自分が少年の傘を持って出たことに気がついた。
そして少女は驚いた。なにごころないしぐさのうちに、
彼女が彼のものだと感じていることを現わしたではないか。
ふたりの距離が縮まったことを物語る一本の傘。
川端康成は男女の機微をおそろしいほど見事に描く。