中山佐知子 2008年12月26日



星のマーケット

                
ストーリー 中山佐知子
出演 大川泰樹

星のマーケットを歩いていた。
星のマーケットは海の底に似ていた。

霧もないのに見通しがきかず
うす青い闇に星の屋台が並んでいた。
なかには屋台を持たず、手当たり次第あたりの樹々に
星をぶらさげて売る商人もいた。
明るい星もあれば消えそうな星もあった。

僕は歩きながら
ただぼんやりと星を見ていた。

4000年もむかしのファラオの星がいた。
僕の間違いでなかったら
3万年も前のネアンデルタール人の星も
ほんのいくつかあったと思う。
動物たちの星も多かった。
けれども僕が中学のときに死んだおばあちゃんや
今年亡くなった漫画家の星がなかった。

大きなマンモスの星を見つけたときは
この世界のどこかに
まるごと氷に閉じ込められたマンモスが
まだいるんだなと思った。
古生物学の教授が発見したらどんなに喜ぶだろう。

それから僕は思い出した。
火葬した骨にはDNAが残らない。
それから僕は考えてみた。
星のマーケットの星々は
かつて生きたものたちが残したDNAだと。
それは土や氷に埋もれて
まだこの地上に確かに存在している。

おばあちゃんも漫画家も
非暴力を唱えたインドの宗教家も
人民に愛された中国の首相も
美しかった映画女優もノーベル賞の物理学者も
熱狂的なファンに銃で撃たれたミュージシャンも
星を残してはいなかった。
けれども
銃殺されて埋められたロシア皇帝の星は見つかった。
パイロットとして従軍し、飛行機ごと行方不明になった
フランスの作家もちゃんと星になっていた。

その星を僕が買えば、作家は戻ってくるのだろうか。
そんなことを考えていると
小さな明るい星が僕の足元にすり寄ってきた。
それは星のくせに見覚えのある縞の尻尾がついており
三日ほど前から帰って来ない僕の猫のようだった。
僕はその星を抱き上げ、お金を払った。

翌朝、目が覚めてみると
いなくなっていた猫が、僕の耳元でにゃあと鳴いた。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP


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