ウッシーと歩きながら
ストーリー 一倉宏
出演 西尾まり
日本全国の「牛島くん」や「牛尾くん」は きっとかなりの確率で
「ウッシー」というニックネームを持っているに違いない
けれど 私の幼なじみの「ウッシー」は
本名を「牛山田 明」という
とってもふつうな「やまだ あきら」 ・・・の前に
「うし」がついて 「うしやまだ あきら」だ
家も近所の牛山田くんは 保育園から中学までいっしょで
母親同士も親しくしていた
いまでもときどき 「きょうウッシーに会ったわよ」と
なにかとキツイうちの母が 嬉しそうにいったりしてる
ウッシーには そんな魅力があって おとなにも好感度が高い
いつも笑顔で 礼儀正しく挨拶する
成績は中くらいで 絵と歌がうまくて
ちょっと太っていて 走るのは遅かった
ひとづきあいがよくて 友だちの多い ウッシー
そんなウッシーも 髪をツンツンにして ピアスをいっぱい付け
革のパンツなんかはいてた時代もあったけど
まもなく落ち着いて 家業の自転車屋さんを継いだ
ちょっと太めのパンクをやってたあの頃も 道で会えば
にこにこと うちの母に挨拶していた ウッシーなのだ
このあいだ ひさしぶりに地元の同級生が集まった
JRの駅前の居酒屋で飲んで その後 カラオケに雪崩れこんだ
ひさしぶりにウッシーの歌も聴いた
「おまえ 声がよすぎなんだよ パンク歌うには」
「だいたい自転車屋が パンクなんて縁起わりーぞ」なんて
仲間にからかわれても やっぱりにこにこのウッシー
1時を過ぎても まだまだ続きそうだったので
「そろそろ帰るね」と私がいうと 「オレも」と牛山田くんがいい
いっしょに店を出た
駅前の駐輪場に 彼の自転車が置いてあった
「ねえ 乗せてってよ」というと すこし詰まってから
「自転車屋のセガレが 酔っぱらってニケツでコケたりしたら
しゃれにもなんねえじゃん」と 断固として拒絶した
それで 自転車を押す牛山田くんと 並んで歩きはじめた
ほんとにひさしぶりに ふたりで歩いた
そして ほんとにひさしぶりに ふたりで話した
といっても ほとんどは 私が話した
仕事はまあまあ続いてるけど なんだか先が見えないこと
そろそろ家を出たいんだけど 部屋代がやっぱり高いこと
いまの彼氏とは一年半つきあって 2回も浮気されたこと
私って これでいいのかと いつもいつも焦ってしまうこと
牛山田くんのゆるーい相槌を聞きながら
そんな話をしているうちに 家の前に着いた
「大変だよな みんなそれぞれ
でも ゆっくり考えて ゆっくり答を出せばいいと思うよ
オレは・・・ そういうタイプ」と
牛山田くんはいってくれて すごくいい声でいってくれて
その声に似合わない いつもどおりの笑顔もあって
なんだかすごく ホッとしたんだ
そっと玄関を開けると 母がまだ起きていて
「いったい何時だと思ってるの」と いきなり角を生やしたけど
「ウッシーに送ってもらった」といったとたんに
「あら そうなの」と あっさり引っこめた
今夜は ウッシーに モー感謝!
出演者情報:西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー
動画制作:庄司輝秋