小野田隆雄 2009年2月13日



少女とリボン
            

ストーリー 小野田隆雄
出演  久世星佳

リボンというのは、細い幅に織られた
ひものことなんですね。などと、
あらためて言うのも、変なのですが、
私の場合、リボンといわれると、
ひもの状態ではなくて、
飾りとして、かわいい形に結ばれた姿を、
まず、イメージしてしまいます。
中学生時代の
スポーツ大会で胸につけた
シンプルなリボン。
蝶ネクタイと呼ばれる
リボン結びにしたネクタイは、
ずいぶん何度も
舞台でタキシード姿になったとき、
身につけました。
それから、すっかり、
二月の年中行事になった
バレンタインデー。
その日に贈られるチョコレートを
飾るのもリボンですね。
もっとも、私には、残念ながら、
リボンをつけたチョコレートを
どなたかにお贈りした記憶は
いままでのところ、ありませんが。

三好達治という詩人が、
昭和時代の初めに、
「測量船」という詩集を発表しました。
そのなかに、「村」という詩が
ふたつあります。
そのひとつに、リボンが登場します。
高校生の頃に読んで、
こころが、動きました。
三好達治の詩集は、いまも
本棚の奥に、しまってあります。
短い詩ですので、
ご紹介したいと思います。

鹿は角に麻縄をしばられて、
暗い物置小屋にいられてゐた。
何も見えないところで、
その青い瞳はすみ、
きちんと風雅に坐ってゐた。
芋が一つころがってゐた。
そとでは桜の花が散り、
山の方から、
ひとすじそれを
自転車がひいていった。
背中を見せて、
少女は藪を眺めてゐた。
羽織の肩に、
黒いリボンをとめて。

この村はたぶん、猟師(りょうし)さんのいる
山奥の村なのでしょう。
鹿がとらえられて、物置小屋に
入れられています。
おりから、季節は春の終り、
物置小屋の外では、
桜の花びらが音もなく風に舞い、
坂道をくだる自転車を
追いかけるように、
散っていくのでした。
そのとき、少女はひとり、
竹藪を眺めて立っていたのです。
その羽織の肩に、黒いリボン……

さりげない、静かな村の風景なのですが、
私は、この詩を読むたび、
澄みきった、哀しさを含んだ春の風が、
心に届くのを感じました。
そして、いまも次のことを
信じています。
少女は、声も出さずに、
泣いていたのだろうと。
きっともう、明日は生きていない
鹿のために、黒いリボンを
つけたのだろうと。

私のリボンの思い出は、
ちょっと、メランコリックに
なってしまいました。
三月になったら、軽いブラウスを着て、
明るい色のリボンを、
つけたいと思います。
それでは、お元気で。

*出演者情報久世星佳 03-5423-5904シスカンパニー 所属


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