上田浩和 2009年4月16日



水戸黄門
                 

ストーリー 上田浩和
出演 菅原永二

水戸黄門一行は、その道中、
すこし変わった引き算と足し算で盛り上がっていた。
例えば、木の枝に「みみずく」、道端に「みみず」がいたら、
「みみずく」から、「みみず」を引き算する。
すると、黄門様のしわくちゃの手の平には、ひらがなの「く」が残るのである。

「しちいちがしち、しちにじゅうし」
そのひらがなの「く」を、
今度は、九九の練習をしている八兵衛の口のなかに放り込むと、
八兵衛は突然笑いはじめる。
「九九」に「く」がひとつ増えて、
「くくく」という笑い声になったのだ。
「なにがおかしいんだい」とお銀が尋ねれば、
「気味の悪いやつだ」と助さんが言い、「まったくだ」と格さんが笑う。
とまあ、こんな具合に水戸黄門一行は、道中を楽しんでいた。

ある日、一行は不埒なやつとすれ違った。
そいつは、不埒なうえ、プラチナの指輪をしていた。
そこで「プラチナ」から「ふらちな」を引き算すると、
黄門様の手の上には、野球ボールくらいの大きさの○が残った。
黄門様が右手に○のボールを持ち、正面を見据えると、
目の前には、いつのまにかバットを構える清原の姿がある。
「打たせてとりましょう」
ファーストから、格さんが声をかけた。
サード八兵衛。キャッチャー助さん。
ベンチでは、マネージャーのお銀が両手を組み、祈りのポーズだ。
そして、マウンド上で、黄門様は心にある誓いをたてる。
「この試合が終わったら、マネージャーに告白するんじゃ」
ところが、黄門様の渾身の一球は、清原のわき腹を直撃したのである。
誰もが乱闘だと思ったそのとき、意外なことが起こった。
清原が、おとなしくファーストへ歩き出したのである。
おそらく、○のデッドボールを受けた瞬間から、
「きよぱら」になっていた清原は、物腰まで丸くなっていたのであろう。
格さんは、出しかけた印籠をそっと懐に戻した。

その晩のこと。
昼間、マウンド上で誓ったとおり、黄門様は、お銀に告白した。

「出会った頃からずっと好きじゃった」。そして、ふられた。
涙にくれる黄門さまとは反対に、次の日は、晴天。
黄門様は、ひとりぼっちで海へと釣りに出かけ、一匹のタイを釣り上げた。
太陽から、タイを引き算すると、
「よう」と空が話しかけてきた。
「よう。黄門様。失恋か。いい年こいて」
「うるさいわい。なあ空よ、答えてくれ。
わしはなんのために旅をしとるんだろ」
「理由は分からんが、そのかわり、黄門様、あんたにプレゼントをやろう」

それからしばらくすると、空から、意外なものが降ってきた。
桜の花びらである。
まわりには桜の木など一本も見当たらないのに、
まるで雪のようだ。
同時に、サク、サク、サク、サクと小気味いい音も聞こえてくる。
いつのまにか黄門様のそばにいた八兵衛が、うなぎパイを食べている音だ。
「さくら」の花びらと「サク」という音。
黄門様が、「さくら」から「サク」を引き算すると、
空中を漂っていた無数の花びらは全部、「ら」になり、
くっついて「ららら」になり、そしてひとつの歌をつくった。

ら♪ららら♪ららら♪ららららららら♪
じんせーいらくー♪

「さ、いきましょうよ、ご隠居様」とお銀が手を差し伸べた。
気が付けば、これから行く道が花びらできれいな桜色に染まっている。
黄門様は、一行を従え、空からの贈り物である「花道」を歩きはじめた。

出演者情報:菅原永二 猫のホテルhttp://www.nekohote.com/

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋



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