一倉宏 2009年7月2日



暗闇をこわがるこどもに聞かせる話

                
ストーリー 一倉宏
出演  片岡サチ

だいじょうぶ。もうすこしここにいてあげるからね。
あと5分。そうしたらもう、あかりを消して寝ようね。

どうしてあかりを消すのか。
うーん、そうだな。夜をつけるために。
このスイッチはね、押すとあかりがついて、昼間みたいに
明るくするスイッチだけど、もういちど押すと暗くなって、
夜をつけるスイッチでもあるんだ。
そう、この部屋を、夜にするスイッチ。

夜は、たいせつだよ。
夜は暗いからきらいっていうけど、
暗くなるのもちゃんと意味があって、たいせつなんだよ。
それはね、まわってるってこと。
時間が、止まってしまわないで、動きつづけてるってこと。
夜が朝になって、昼間になって、夕方になって、夜になる。
ずっと明るい昼間だったら、パパのおしごとも終わらないで、
帰ってこられなくなっちゃうかもしれないな。

おやすみがあって、おはようがあって、
いってらっしゃいがあって、おかえりなさいがあって。
夜になって、目をつぶって、おやすみをしたら、
つぎには、ぜったいに朝がきて、目がさめて、起きるでしょ。
ぜったいそうなるから、みんな安心して眠れるの。
そのじゅんばんはね、たいせつなたいせつなお約束なんだよ。

そうやってくりかえすのは、地球がまわっているからなんだ。
ほら、遊園地に、大きな観覧車があって、ゆっくりゆっくり
まわっているでしょ。地球っていう、この大きな丸い星も、
ゆっくりゆっくりまわって、おひさまの光があたると、
明るい昼間で、影になると暗くなって、夜になるんだ。
まいにちまいにち、じゅんばんに、かわりばんこに。
そう、地球の半分は昼間で、半分は夜なんだ、いつも。

だから、だいじょうぶ。
夜がきて、朝がくるのは、ぜったいまちがえない約束だから。
安心して。大きな大きな、観覧車に乗ったつもりで。
ゆうくんも、えりちゃんも、保育園の先生たちも、
パパもママも、みんないっしょに乗って、まわってるから。
大船のおじいちゃんとおばあちゃんも、横浜の良枝おばさんも、
アメリカにいった礼二おじさんたちも、いっしょに。
それから、中国のパンダも、インドのゾウさんも、
アフリカのキリンやライオンたちも。
いっしょに乗って、ゆっくりゆっくり、まわってるから。

それじゃ、そろそろ、「おやすみ」しようね。
スイッチを押して、夜をつけるからね。

夜をつけて、暗くして、目をつぶって、寝よう。
そうすれば、しぜんに、あしたの朝が、近づいてくるよ。
寝るたびに、ほら、おじいちゃんおばあちゃんたちと
海水浴にいく日も、近づいてくるから。
その向こうには、じゃーん、お誕生日も待ってるから。

さあ、おやすみ。
夜をつけて。
目をとじて。

出演者情報:片岡サチ 03-5423-5904 シスカンパニー


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