僕のブロンドの妹
ストーリー 一倉宏
出演 石飛幸治
それは 夢だろうか
ひとはいったい めざめたまま 何年もいつまでも
同じ夢をみることができるのだろうか
10年がたったいま この話をしても もう
夢か 嘘か 冗談としか 思われないのだけれど
僕にはかつて ブロンドの長い髪の 青い瞳の 妹がいた
名前を クリスチーヌ という
14才で 158センチの背丈で 突然 僕の世界に現われ
16才で 170センチの背丈で ある日 僕の前を去った
僕が 大学生になった年
ささやかな翻訳の仕事をしていた母は
再婚するかもしれない してもいいかしら といった
僕の幼い頃に父と別れ 女手ひとつで育ててくれた母が
ちょっと恥ずかしそうに でも嬉しそうにいうからには
どんな異存も あるはずはなかった
相手はアメリカのひと そのひとも再婚なの
かわいい とてもかわいらしい 娘さんがいるわ
きっと仲よくなれるはず すてきな妹ができるから
それが僕の はじめてにして 唯一の妹
カリフォルニア州 サンタモニカの生まれで
ブロンドの長い髪 青い瞳の クリスチーヌ
彼女は 8月の 真昼の太陽のように明るく笑って
8月の 夕暮れの潮風のようにはにかんで話した
14才で 158センチの背丈で すこしシャイだった
和風ハンバーグと 表参道と 日本のアニメが好きだった
弓道と マイケル・ジャクソンと 日本の憲法が好きだった
パパと 新しいママも好きだけど あなたも好き
アメリカで生まれ育ったけど 日本に来てよかった といった
僕が この人生で まっすぐに見つめられて
「 I LOVE YOU 」とささやかれ キスされたのは
君が はじめてだったよ
僕の 妹だった クリスチーヌ
あの頃の あの気持ちを
なんていったらいいのか わからない
僕はわけもわからず 突然 秘密の宝石を渡されたみたいで
これをお前に預けるから 肌身離さず たいせつに護るようにと
厳命された スパイみたいで
君という 君の瞳のような おおきなサファイアを
あるいは 別のいいかたをするなら
君という 美しい 危険なピストルを
それから3年が経ち 君は170センチになり
母は なんだか無口になり
まもなく 僕らの新しい家族は 別れた
あれから10年 元気でいますか
ブロンドの 青い瞳の クリスチーヌ
別れの日 成田のロビーで 最後のハグをして
泣いてくれた 僕の妹だった クリスチーヌよ