僕がピノキオだった頃
ストーリー 一倉宏
出演 森田成一
いつかは 話さなければと思っていた
僕はほとんど 昔の話 こどもの頃の話をしなかったから
君はきっと なにか隠してると 感じていたことだろう
ごめんよ 話そうと思う 今夜は
たったひとりの身内 育ての親がいた
時計屋をやってる 職人気質のじいさんだった
心配も 迷惑も かけっぱなしだったよ
なにしろ やっと歩けるようになったと思ったら
その足で さっさと家出をしたくらいで
いやほんと どうしょうもないガキだったんだ
ずいぶん ヤンチャをやった ワルもやった
その頃は <ピノキオ>っていう名前で呼ばれていたんだ
腕も足も細くて 丸顔に 恥ずかしいほどとがった鼻
脳ミソなんて ないに等しかったから
平気で嘘をついて 誘惑に弱くて すぐにだまされて
学校に払うお金は みんな使っちゃったよ
街が呼ぶんだ あのにぎやかな音と 甘い匂いで
チカチカするネオン 怪しげで おいしげな話
金なんかすぐに増やせる 金さえあればなんとでもなる
「ふしぎな野原に金を埋めておけば 一晩で 金のなる樹に」
なんて話さえ マジに信じてしまうほど
脳ミソのない人形だったんだよ <ピノキオ>だった僕は
まわりには まともな人間なんていなかった
ずるがしこい<キツネ>と 口のうまい<ネコ>
だまして おどして 巻き上げて 売り飛ばす
唯一 <コオロギ>だけは ほんとうの友だちだったのに
僕は裏切ってしまった その忠告が うるさかったから
君は こんな話を信じるだろうか
おとぎ話じゃない そして ディズニーの映画でもない
原作は ほんとうの<ピノキオ>の話は
もっと愚かで もっと惨めで もっと恐ろしい話だったんだ
少年時代のこの僕が 体験したように
それから 殺されそうになり 裁判にかけられ
ますます嘘つきになり 人相が変わり サーカスの見せ物になり
女神のような存在にも会い それでも更生できずに
楽なことばかり求めて ただ遊び暮らし
そして その虚しさと自己嫌悪に 耐えきれなくなった頃
僕はやっと まともな人間になりたいと 心から願い
それを許されたんだ
最後は クジラの胃袋に呑み込まれたような 絶望の境地で
そして じいさんにも やっと謝ることができた
泣きじゃくりながら 人間の心で
どうかな 信じてくれるかな
信じられないだろう この 僕自身だって
思い出したくない 悪夢のような あの時代
僕はもう 二度と<ピノキオ>には 戻りたくない
僕はもう ずっとこうして ただの人間でいたいだけ
できれば …君と
嘘だと思うかい?
僕の鼻は のびてるかい?
出演者情報:森田成一 03-3749-1791 青二プロダクション
動画制作:庄司輝秋
これ好きです。毎回楽しみ?にしてます。
これからもお願いします。