さようなら、はじめまして
ストーリー 国井美果
出演 毬谷友子
~小さい頃は神様がいて、不思議に夢を叶えてくれた
これ、映画「魔女の宅急便」の終わりに流れる、私の好きなうた。
本当は、ナントカっていう名曲だってママが言ってたけれど、
忘れてしまった。
小さい頃は神様もサンタもいて、よかったなあ。
今日は私の誕生日。
6月9日。ロックな13歳だぜ。
べつにロック・ミュージックが好きなわけじゃないんだけれど。
今年の誕生日は、なんとなく、ひとりでいることにした。
放課後、ミスドで誕生会しようと言ってくれた友達にはお礼だけ言って、
ボーイフレンドとは週末に会う約束をした。
もともとひとりっこだし。
パパはいつも夜中に帰ってくるし。
ママはこのまえ死んでしまったし。
・・・いや、正確にいうと死んでなくて、ピンピンして生きてるんだけど、
どうにも許せないことがあって、つい口がすべりました。
そのママから、ケータイにメールが届いた。
「モンちゃん、ハッピー・ハッピー・バースデー!
バルセロナは快晴だよん。風邪ひいてない?朝ちゃんと起きてる?
戸締まり火の元には気をつけて。大好きだよ!LOVE!ママ」
娘へのバースデーメールというより、ただの留守番の確認だ。
ああ、やっぱりムカついてきた!
あなたねぇ、今年の誕生日はレストランに行こうって約束したのに、
へっちゃらで10日間も出張に行っちゃうなんて、ありえなくない?
小さい頃からずーっと仕事仕事で忙しくて、それはいいとしてもさ、
誕生日の約束ぐらい守ってくれてもいいよね?
居てほしいときに居てくれないなんて。もうあなたなんて、要―らない!
せっかくの13歳なのに。
そうだよ。
「魔女の宅急便」のキキだってひとり立ちして修行に出た歳だし、
私も早くひとり立ちしてやる。
やりたい仕事みつけて。部屋さがして。
うんとやさしいお姉さんがタダで部屋を貸してくれて。
新しいボーイフレンドもできて。
実家なんてめったに帰ってあげないよ。
落ち込んだりしても私は元気なんだから!
・・・と、怒りが頂点に達したら、おなかが鳴った。
とっさに「釜揚げうどん」の絵が浮かんだので
猛然と湯をわかし、麺をゆで、生姜をすりまくり、万能ネギを刻みまくり、
考えられないくらいの量をひとりすすった。うまかった。
そういえばママが出張から戻ると、今度はママの誕生日だ。
21日。夏至に生まれたんだって。
夏至が過ぎると、本格的な夏がはじまる。
さようなら、12歳。はじめまして、13歳。
おみやげの内容次第では、誕生日になったら、
生き返らせてあげてもいいかな。
人間、おなかが満たされると大概のことは許せるようになるものなのだ。
と、ピカピカの13歳の私は静かに悟った。