中山佐知子 2011年3月27日


明るい野原に

               ストーリー 中山佐知子
                   出演 大川泰樹

明るい野原にレンゲが咲いた。
それは野原の言葉だった。
レンゲはここの土は栄養たっぷりですと教えてくれた。
そして、その言葉通りやがて耕耘機がやってきて
400kgの重さでレンゲをずたずたに踏みつぶし掘り返し、
土に混ぜてしまった。
レンゲの野原はレンゲをこやしにして
よく肥えた田んぼに変わる。

レンゲの野原にはホトケノザも咲いた。
この花は肥えた土が大好きで
そこが土手だろうと道端だろうと
ここはいい土ですよと教えてくれるのだ。

野原を流れる水路にはヘビイチゴが赤い実をつけた。
ヘビイチゴの言葉は水だった。
ここには水がありますよ。
確かにヘビイチゴは川べりやじめじめした湿地に群れをつくる。
そしてそこが蛇の出そうな場所だからという理由で
ヘビイチゴを呼ばれるようになった。

ツクシとスギナ、ハルジョオン、カタバミ
彼らの言葉は、荒れ地。
乾いた栄養不足の黄色い土、酸性の強い土壌、
他の植物が嫌がる場所でも
彼らはぬくぬくと暮らしてしまう。
そういえばナズナもそうだ。
ナズナというかわいらしい名前があるのに
ペンペン草なんて呼ばれるのは
荒れ地に咲くたくましさが原因かもしれない。
根があまりに深いので絶対に畑や庭には入れてもらえないタンポポも
荒れ地の野原では大威張りで咲く。
タンポポの茎を笛にして、子供たちは遊んだ。

魚沼の山のなだらかな斜面には
オオバ黄スミレとカタクリが咲いた。
カタクリの言葉は落ち葉。
落ち葉が分解されてフカフカになった土が大好きだ。
その野原はどう見ても野原だが
公園という名前になっている。
公園にしておかないとカタクリが盗まれるのかな、と
後になって気づいた。
可憐な二輪草はこの土地では食べられる野草の仲間になっていた。

そういえば、高尾山のどこかに
カタクリが一面に咲く野原があるそうだ。
カタクリが終わると山吹草で黄色に埋まるのだと
植木屋さんが話してくれたが
その場所はとうとう教えてくれなかった。

それでも僕はカタクリと山吹草の野原を思い描くことができる。
そこはきっと石灰岩の土台に腐葉土の層がある。
水は豊かにある。
暑い日差しは遮られ、夏も涼しい。
カタクリと山吹草を翻訳するとそんな野原になる。

野原には野原の言葉がある。
そこに生える草や花が野原の言葉だ。
僕はその言葉をもっと覚えたいと思う。

*このストーリーに登場する植物はすべて下の動画に写真があります。
 見損なった人はもう一度どうぞ。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP


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