中山佐知子 2011年12月25日

カインから数えて七代めの子孫

              ストーリー 中山佐知子
                 出演 地曵豪

カインから数えて七代めの子孫にトバル・カインという人があった。
祖先のカインは土を耕し作物を実らせる人だったが
羊飼いの弟アベルを殺した罪で追放され、
カインとその末裔は印をつけて地上をさまようものになった。
もはやどこにも安住の地を見いだせない彼らは
羊飼いになったり、竪琴や笛を演奏する遊芸の世界に身を投じたり
鉄や青銅で道具をつくる鍛冶屋として生きていた。

そんなわけでカインから七代めのトバル・カインが
鍛冶屋を生業(なりわい)にしていたのも不思議ではなかった。
トパル・カインにはひとつの望みがあった。
カインの印をつけられ憎しみを受ける一族のために
この世でもっとも強い武器をつくりたい。
彼はそのための鉱石をさがしていた。

ある晩、トバル・カインは天空から火の玉が降るのを見た。
火の玉は山の麓を貫くように落下し
トバル・カインがその燃え跡をたよりに行ってみると
そこにはみたこともない鉱石があった。
鉱石には自分に似た印が刻まれていたので
良きにつけ悪しきにつけ自分に与えられたものだと知った。

トバル・カインは印のある鉱石を持ち帰り、1本の槍を鍛えた。

神はその槍をトバル・カインが所有することを許さず
岩山に隠すように告げられたが
数千年のうちにいつしか見出され
槍は持ち主を変えながらイスラエルをさまよった。

紀元前一世紀になると
トバル・カインの槍はローマ軍の100人隊長が代々受け継ぎ
所有するものになっていた。
槍は決して錆びず、また刃先が欠けることもなかった。

紀元28年に、槍の持主だった100人隊長は
ローマが支配するユダヤ州に勤務していた。
その日は罪人の処刑が行われており
本当に死んだかどうかを確認するために
十字架にかけられた罪人をいちいち槍で刺してみることになった。
トバル・カインの槍はナザレのイエスと名乗る
政治犯でテロリストだった男の
四番めと五番めの肋骨の間を脇腹から肩口にかけて刺し貫いた。

ロンギヌスの槍が誕生したのはその瞬間だった。
このときからトバル・カインの槍は
キリストの血に触れた聖なる遺品として崇められ
持ち主の名を取ってロンギヌスと呼ばれることになった。

以来、ロンギヌスの槍からカインの名は消えたが
槍のもとになった隕石の鉄は
この星に人類の歴史が刻まれる以前から
宇宙を孤独に旅していたものであり
さまようものの印として
三角形を重ねたような美しい結晶模様を持つのだという。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html


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