夜の道を
夜の道を走っている。
こうやって深夜走るようになって半年くらいか。
飽きっぽい私がこんなに続いてるなんて自分でも不思議。
ごちゃごちゃした毎日を忘れる時間が欲しかったのかも、と思う。
だから走るのは夜がいい。
夜の街は思った以上にしんとしていて
その中で、自分の足だけが懸命に働いている。
いつもいろんなことにとらわれているアタマは
苦しさと若干の気持ちよさだけにスペースを使っている。
それでもそのうちに、アタマは別のことを考え始める。
それは取り留めなく、次から次へといろんな思いが
浮かんでは消えて行く。
そういえば駅伝。箱根はすごかったね。
あれ、走ってる人はどんな気持ちなんだろう。
もちろん私なんかと比べようもないくらい苦しいし、
母校の名誉を背負ってるから重いだろうし、
ペースとか順位とか、いろいろ考えるから、
今の私みたいにつまらないこと考えるスペースはないんだろうな。
それでもいろいろ考えるんだろうか。
「前の選手の走り方、ちょっとヘンだな」とか思うのかな。
マラソン走ってる友達が、応援ってすごくありがたいって言ってたけど
やっぱり応援はうれしいのかな。沿道の人は見えてるんだろうか。
選手の横でいっしょに走り出す中学生を見て、
バカだなあ。とか思うのかな。
そういえば箱根の山道で、やっぱり急に走り出したおじさんがいて、
「子供じゃあるまいし」と思ったら急いでる係員だった。
あれは笑ったな。
もしあの箱根の山道がこんな暗い夜だったとしたら
沿道の応援は、私が今見ている街の灯りみたいなもんなんだろうか。
私が、暗い夜道が気持ちいい。と言いながらも、
路地の家々に灯る小さな灯りに、なんか励まされる気分になるのと
同じような感じなんだろうか。
そんなもんじゃないよね。
いっしょにするな、って怒られそうだ。
彼らが走ってる先にはタスキを待つ仲間がいて、
それはひときわ大きい灯りなのかもしれない。
目指す場所はやっぱり明るくて、人はそこに行かずにはいられない。
それに比べたら私は、
いったいどの灯りに向かって、こうやって走っているのだろう。
こうやって街をぐるぐる回って、
たどり着く先は、いつもの自分の部屋だ。
それはゴールなんだろうか。
たしかにホッとする場所ではあるけれど。
テレビでやってた。宇宙から見た地球。
カメラが進歩して、夜の地球の映像を撮ることができるようになったんだって。
宇宙から見た夜の地球は、はっきりは見えないけれど、
大きな街に輝く灯りで、そこが陸だということがわかる。
その灯りだけで、だいたいの陸地の形がわかる。
日本列島の形ははっきりわかった。
東北はまだまだ暗くてちょっと寂しかった。
あの灯りもゴールだ。
いろんな人の、いっぱいのゴールが集まって光ってる。
いろんな人がいろんなところを走っていて、
それを応援してくれる灯りがあんなにもいっぱいあるんだ。
そんなことを考えながら走っていたら、
うちの灯りが見えてきた。
やっぱりあれは私のゴールなんだ。
旦那とネコが灯りを消さないうちにラストスパートしよう。
タスキは持ってないけれど
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