秒速8キロメートルで飛ぶ
秒速8キロメートルで飛ぶステーションは
1日に地球を16周し
45分の昼と45分の夜が16回繰り返されます。
その1時間半の昼と夜を一日と数えると
僕は1年で16歳も年を取ることになります。
同い年のはずだった僕が
16歳も年上になって帰ってくるのはイヤですか。
そんなメールを書いたら
イヤです、と、きっぱり返事をくれたあなたが
僕はとても好きです。
ステーションの窓から眺める45分の夜には
金色の砂粒で描かれたような絵が見えます。
人がともす灯りが都市の形を浮かび上がらせているのです。
こちらに来たはじめの頃は
自分の国の灯りを、そして
自分が住んだ街の灯りをよくさがしていましたが
いまはただ、灯りの多さと灯りを使う人の多さを思い
このおびただしい灯りがひとつも消えることのないようにと
願うだけになりました。
地上の灯りは人々の暮らしがそこにあることを告げています。
僕はここに来て以来、人がともす灯りが大好きになりました。
あなたの街に灯りがともりはじめる夕暮れの空に
流れ星より明るい光が移動するのを見つけたら
それが僕のステーションです。
けれども、地上に届く僕たちの光は
僕たちが仕事をしたり食事をしたりするための灯りではなく
電池パドルやラジエーターが太陽の光を反射している光です。
もしステーションから人が消えても、命の気配が消えても
その光は消えることなく軌道をまわりつづけます。
だから、あなたはあなたの灯りを大事にして
毎日を生きてください。
僕がそれを眺めていることを
ときどきでいいから思い出してください。
実は報告があります。
ステーションに勤務する期間が少し延びました。
45分の昼と45分の夜が16回繰り返される日があと1年続きます。
もう1年、45分の昼と45分の夜を一日と数え続けたら
あなたと同い年だった僕は
32歳年上になって帰ることになります。
そんな僕はイヤですか?