中山佐知子 2013年2月24日

ワンゼロ

            ストーリー 中山佐知子
               出演 大川泰樹

1はイエス、0はノー。
0と1の信号でアイラブユーのアルファベットを書いたら
41のイエスと39のノーを数えた。

1が戦争、0を平和にすると
アイラブユーは41の戦争と39の平和になった。
その戦争の数はいま現在世界で起こっている戦争よりも
たぶん、少しだけ多い。

1を晴れ、0を雨にする。
41の晴れた日と39日のどしゃぶりのアイラブユーになった。
曇りの日はない。たぶん小雨の日も。
1と0だけの信号には0.5や0.9がない。
あなたに会いに行こうかどうしようかと迷う
雨上がりの夕暮れもない。

1は存在、0 は不在。
そこにあるかないかだけの意味しかない。
電話に出るか出ないか。
ノックの音に応えるか応えないのか。
そして待っている僕のところに
あなたは来るのか来ないのか。

気温が下がりはじめた暮れがたに
家並の背後を流れる川で餌をさがすアオサギを見た。
冬枯れの川は水が浅く、餌はなかなか見つからない。
アオサギは何度もクチバシを水に差し入れ
やっと小魚を一匹つかまえる。
たくさんの0のなかの小さな1のおかげで
アオサギはこの冬を生きている。

その人生を意味するライフの文字に
1の生と0の死をあてはめると
人生は19回の生と13回の死だ。

生はいつも自分の隣に死を置きたがる。
0を含まない1は永遠の孤独だから。
そして不在のない存在も。

1は存在、0は不在。
ふたりを意味する2という数字を1と0の信号にすると
1がひとつ0がひとつのワンゼロになる。

僕が1のとき、あなたはゼロ。
僕のそばにあなたはいない。
あなたが1のときは僕がゼロ。
ふたりというのはそういうことだったのだ。
ふたりというのは誰かの不在を抱えることだったのだ。

暗い水の上で
アオサギはまだ餌をさがしている。
無数の0をクチバシで確かめながら
水の底の1をさがしている。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/


ページトップへ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA